森川亮氏はなぜLINE社長を辞めたのか

【田原】その森川さんも去年辞めました。なんで辞めたんですか。LINEの社長なら安定していいのに(笑)。

【出澤】森川さんは、テレビ局を辞める人なんて誰もいなかった時代に日本テレビ(放送網)を辞め、その後ソニーも辞めて、給料を減らしても当時ベンチャーだったハンゲームジャパンにきた。たぶん、新しいことをやりたいと思ったらチャレンジせずにはいられない人なのでしょうね。それと、私たち自身の成長も大きい。いままでは森川という監督がいて、シンや舛田、私が先ほど言った役割でチームプレーをしながらサッカーをやってきたようなところがあったのですが、その様子を見て、もう監督がいなくても大丈夫だろうと判断されたのだと思います。

【田原】森川さんが辞めて出澤さんが社長になられましたが、ワントップではなく、シンさん、舛田さんとのトロイカ体制だそうですね。リーダーが多くいると調整が必要になって、意思決定のスピードが鈍ったりしませんか。

【出澤】逆だと考えています。企業の規模がある程度大きくなると、きちんと領域を分けて、それぞれ権限委譲したうえで意思決定していくというスタイルのほうが速い。実際、グーグルもそうでした。スピードを落とさないためのトロイカ体制です。

なぜLINEは今年まで上場しなかったのか?

【田原】さて、今年7月に東証一部に上場されました。LINEは前々から上場の噂がありましたが、結局今年になった。どうして延ばし延ばしにしてきたのですか?

【出澤】われわれの中で準備がもっとも整ったのが今だったということでしょう。具体的には3つあります。1つは成長戦略です。LINEがこれからどのような方向に伸びるのか、3~4年前は自分たちなりの仮説はあっても、確信が持てる状況ではありませんでした。しかし、ようやく戦略が明確に固まってきました。2つ目として、方向性の正しさを裏づける収益的な成長にも確信を持てたこと。そして3つ目として、急速に大きくなって不安定になりがちだった組織運営も、しっかりできるようになってきた。この3つの点で準備が揃ったのが、いまというタイミングだったわけです。

LINEユーザーは世界で1億6200万人

【田原】いまユーザー数はどれぐらいいるんですか?

【出澤】日本のMAU(マンスリーアクティブユーザー)は6400万人です。 海外はタイ、台湾、インドネシアに注力していて、日本も含めた主要4カ国のMAUは現在、1億6200万人です。

東京・渋谷のLINE本社にて。

【田原】主要4カ国に韓国は入ってないの? ネイバーは韓国ですよね。

【出澤】先ほどのネットワーク外部性の話になりますが、友だちとつながるサービスは、1回シェアが固まると、性能差やマーケティングの力でひっくり返すことが困難になります。われわれの試算では、その国のスマートフォンの普及率が40~50%を超えた状態で強いチャットアプリが存在すると、もう切り崩すのは難しい。韓国でネイバーは強いのですが、日本でいえばヤフーのような存在で、チャットアプリは持っていません。韓国では強いチャットアプリが別にあって、シェアを奪うのは難しい状況です。

【田原】他の国はどうですか。アメリカとかヨーロッパは?

【出澤】チャットアプリとしてのLINEは先ほどの4カ国にフォーカスしますが、他の国でも新しいビジネスのチャンスはあると考えています。たとえばいまアメリカとヨーロッパ双方でベンチャーキャピタルに投資をしていますし、世界に向けて、LINEとは別のブランドでカメラアプリを出して展開したりしています。

【田原】中国はどうですか。

【出澤】中国は、政府の方針による規制などがあり、われわれのサービスも2年前から使えなくなっています。われわれがアジアで強いのは、日本の会社なので、アジアの文化を理解できますし、さらに徹底したローカライズを行っているためです。単に現地仕様にするだけでなく、現地の文化に溶け込むという意味で、社内ではカルチャライズと言っています。

【田原】カルチャライズ? たとえばどんなことをするのですか。

【出澤】タイでは「家族」というキーワードが強いので、家族訴求のマーケティングをしています。一方、インドネシアは「同級生」を重視する文化。ですから、過去の同級生を探せる機能をインドネシア限定でつけています。