そしてこのランフラット技術が、スピードを追求するタイヤ技術に次ぐ、ブリヂストンの第2の基軸となっていく。00年には独高級車BMWが一部の車種でランフラットタイヤを採用し、その後BMWの一般車種にもランフラットが採用されていき、ブリヂストンのランフラット技術が欧州に認められていった。今では独アウディ、伊フェラーリなども採用している。さらに14年、一部のカーメーカーの標準装着タイヤとして供給していたランフラットタイヤを「ドライブガード」というブランド名を付けて米国のタイヤ小売り市場で発売すると、大ヒットした。これを受けて翌15年には中国で、今年に入って欧州で発売を開始している。

同じ頃、ブリヂストンでは速さを競うタイヤとランフラットのほかに、「超低燃費タイヤ」という第3の機軸を打ち立てて粛々と研究開発を進めていた。超低燃費タイヤとは、タイヤが回転する際に、進行と反対方向にかかる抵抗力、いわゆる「転がり抵抗」を軽減させたタイヤのことだ。今日のブリヂストンが他メーカーに圧倒的な差をつけているのが、「転がり抵抗」を大きく軽減させるゴムの開発技術だ。これは、ゴムの分子構造に関する基礎研究を続けることで、ブリヂストンが独自に開発したゴムのナノ構造制御技術である。これは現在、低燃費をウリにした人気商品「エコピア」などに生かされている。

製品だけでなく、ブリヂストンはタイヤの生産技術においても断トツを目指すべく、ライバルをリードする最先端システムを開発している。これまでは職人の技術でしかできなかったタイヤの成型過程を独自の情報技術とAI(人工知能)とを組み合わせて全自動化する、世界最先端の生産システム「エクサメーション」だ。

ゴムという素材は温度によって伸縮するほか、原材料によっても硬さが変わるため自動化しにくい。そのため、製造工程の要所には人の手が欠かせなかった。ところが近年、データ解析技術やAI、ビッグデータなど、情報技術が急速に発展したことから、経験と勘に裏打ちされた職人の技を、システム化できるようになったのだ。

「人の手に頼るしかなかった部分が自動化できることで、世界で同時に均一の質を持つタイヤを、大量生産することが可能になりました」と、タイヤ生産システム開発担当の三枝幸夫は誇らしげに語る。今年5月に発表されたこの最先端生産システムは、宿敵ミシュランもまだ実現できていない。

(敬称略)

(1)1997~2010年までF1に参戦、ライバルに勝利した(ブリヂストン製タイヤを装着した2003年シーズンのフェラーリ)。(2)1987年、「ポルシェ959」の標準装着タイヤにブリヂストンのランフラットタイヤが採用された。(3)タイヤの成型過程を独自の情報技術とAI(人工知能)とを組み合わせて全自動化する「エクサメーション」(イメージ画像)。(4)タイヤの転がり抵抗を軽減する技術で圧倒的な低燃費を実現(「エコピア」ブランドのタイヤ)。

(榊 智朗=撮影 写真=AFLO)
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