常連づくりは「自衛」でもある

そんな中、きちんと工夫をしている店もあります。私の知るある居酒屋は、人気のあまり予約が取れないことで有名です。しかし、常連さんが当日電話をするとスルリと入れることが実は多いのです。それはなぜか。この店では、常連さんの気が向いたとき立ち寄れるように、彼らのための席を毎日キープしているのです。

あてにしていた常連さんが来なければ、機会損失になってしまう可能性は当然あります。それでもホッピングして二度と来ないかもしれない新規の予約を断ってでも常連客を大切にしているのです。これは常連へのホスピタリティという面があるには違いありませんが、何よりも「自衛」の意識の表れです。リピーターをきちんとつかんでさえいれば、飲食店はそうは潰れません。

昔のような店とお客の関係は良かったと懐古主義に陥っても仕方ありません。しかし、飲食店は今こそ自身の店を長く続けていくために常連客を大切にすべきですし、常連客候補には「えこひいき」をしてでも、繋ぎとめる努力が必要です。最近では、予約関連ツールが出揃ってきて、顧客の識別や分析が格段にしやすくなってきているのは追い風です。

また訪れる側にとっても、同じ店を何度か訪問するうちに、好みを理解してもらったり、ちょっとしたサービスをしてもらえたりとメリットはあるものです。季節でメニューが変わるような店ならば、1年の移ろいを食材や料理を通じて感じることもできます。さらには、スタッフと顔なじみになれば、自分の「居場所」という価値も生まれてくることでしょう。次の外食は新規開拓ではなく、以前行って良かったあの店に、もう一度顔を出してみてはいかがでしょうか。

子安大輔(こやす・だいすけ)●カゲン取締役、飲食プロデューサー。1976年生まれ、神奈川県出身。99年東京大学経済学部を卒業後、博報堂入社。食品や飲料、金融などのマーケティング戦略立案に携わる。2003年に飲食業界に転身し、中村悌二氏と共同でカゲンを設立。飲食店や商業施設のプロデュースやコンサルティングを中心に、食に関する企画業務を広く手がけている。著書に、『「お通し」はなぜ必ず出るのか』『ラー油とハイボール』。
株式会社カゲン http://www.kagen.biz/

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