汚染対策を提案したA社、しなかったB社
さて、基本設計の発注先候補として絞り込まれたのはAとBの2社であり、A社が「盛り土は不要。地下空間を設置」と提案し、結果的に基本設計を受注した日建設計である。
同議事録33頁の全文を読むと、奇妙なことに気づかされる。プロポーザル技術審査委員会・第3回の目的は、土壌汚染対策を提言した専門家会議を踏まえて具体的な工事計画を検討した技術会議の結論に基づき、ヒアリングで基本設計の発注企業を決定することだ。
それにも関わらず不思議なことに、そのヒアリングで汚染対策への具体案に「盛り土ではなく地下空間を」と土壌汚染対策を説明しているのはA社だけなのである。
議事録に記載されたB社の説明に汚染対策の説明は一切なく、それに関する委員の質問さえどこにも見当たらない。少なくとも、東京ガスの工場跡地で土壌汚染は確認されていたのだから、汚染再発時あるいは新たな汚染発生時の対策を念頭に置けば、その対策用スペースも事前に講じておかなければならない。その道のプロであるB社にも、A社同様、何らかの汚染対策案が当然あったはずである。
周知のように、当初、豊洲新市場の土壌汚染対策を議論した「専門家会議」の提言に法的拘束力はなく、決定するのは東京都だ。しかし、いうまでもなく学識を必要とする事柄に素人判断は通用しないからこそ、行政は専門家を組織して諮問する。その際、実は諮問じたいは建前であり、最初から予定調和の結論へと行政が誘導することも決して珍しくはない。
それにも関わらず、専門家会議が提言した「盛り土」を、なぜ都は地下空間に変更したのか。あるいは、もし都が土壌汚染対策として初めから「地下空間」を想定していたのであれば、専門家会議をその結論に誘導できなかったということなのか。そもそも、長い年月を経て有害物質が土壌から地下に下っていれば、地下水汚染の対策として「地下ピット」がなぜ、汚染対策を検討した専門家会議の提言では言及されていなかったのだろうか。
豊洲新市場ミステリーの謎を解く鍵の一つが、ここにある。(つづく)