エンジン出力とステアリングを制御する

梅津は言う。

「タテ・ヨコの荷重移動をスムーズにするための方法や手段をいったん運転免許をとってしまったあとは一般的に言って誰も教えてくれくれません。にもかかわらず、ユーザーは普段、運転が“うまい”だ、“へた”だという話をしています。こうしたことになっているのは、クルマのほうからのユーザーへの“寄り添い方”がまだ十分だとは言い切れないためではないかと考えています」

だから、プロの技量をクルマに教え込ませてやることが自分たちマツダの仕事になる。

『ロマンとソロバン』宮本 喜一(著)・プレジデント社刊

ひるがえって、技量豊かなプロのドライバーがカーブを駆け抜けるときに行っていること、それはクルマが生み出す力、駆動力を100パーセント過不足なく地面に伝えることだ。そこで、これをクルマの側で実現することを目ざして、マツダの開発陣は、クルマの駆動力を地面に伝える役目を担っているタイヤにいかに仕事をさせるか、という課題に行き当たる。

「消しゴムと同じですよ。タイヤは押しつければ力が出ます」

つまり駆動力を過不足なく地面に伝える、ということは、タイヤの接地面を必要に応じて必要な力で押さえつけて、常に100パーセントの仕事をさせるということと同値になる。

したがって、そのためには、クルマの側からすれば、タテのG(加減速)に関与するエンジン出力の制御と、ヨコのG(操舵)に関与するステアリングの制御両方のバランスをとればよいことになる。つまり、実際にこのバランスを絶妙にとりながらクルマを操っているのがプロのドライバーだ。

従来のクルマの開発現場では、従来、パワートレイン開発陣による「エンジンの制御」と車体開発陣に任されていた「ステアリングの制御」とは、全くつながりがなかったために、両者のバランスをとりながら同時に制御する、という発想が生まれてくることはなかった。したがって、お互いの制御情報が実際に車体の内部を流れているにもかかわらず、その情報を両者相互に取り込むという作業は存在しなかった。

そこで、梅津はパワートレイン開発と車体開発両方の開発者にも相談しながら、タテGの増減とヨコGの増減の関係の解明に取り組んだ。当初は、業界の開発者が勉強している車両運動力学にその答えを求めようとした。ところが、この力学は、車速が一定という前提のもとに構築されており、求める答えはなかなか見つからない。ここから梅津の苦闘が始まる。(文中敬称略 後編に続く)

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