「今、ちょっと、いいですか?」では、返ってくる言葉は「ごめん、後にしてくれるかな」となる公算が高い。そんなときの魔法の言葉が、「1分だけ、ください」というフレーズだ。

「わずかな時間ですから、上司も『じゃあ聞こう』という気になるのです。ただその際、伝えたい内容を事前にしっかり吟味し、話の贅肉を削ぎ落としておくべき。そうした話し方の練習になるのがエレベーターブリーフィングです。多忙な上司がエレベーターに乗っている間に、(1)主旨を伝え、(2)選択肢を伝え、(3)判断ポイントを伝え、(4)結論を伝え、(5)その後のアクションの確認をします。大事なのは、相手が、うん、うんと頷くだけでいいように準備しておくことです」(河野氏)

上司のすき間時間を利用して部下である自分の仕事を片付けることは、回り回って上司にもメリットとなることなのだ。前ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント社長で同グループの証券・資産運用会社での20年以上の経験を生かし『絶対話力』を執筆した土岐大介氏もこう語る。

「そもそも人の話を集中して聞くことができる時間は、だいたい1分間。それ以上は飽きます。顧客や上司に対して、1分間で簡潔に要点を伝えることがビジネスパーソンの最重要スキルです。私が証券会社の営業をしている頃、最初に学んだのは、顧客である投資家が意思決定するために『今何が起きているか』『なぜそれが起きたのか』『では、どうすればいいのか』の3点を簡潔に伝える、ということでした。それは、上司に伝えるときにもまったく同じことが言えます」

土岐氏の語るこの「1分話力」を鍛えるには、テレビCMや電車の中吊り広告などを見て、自分なりに情報を再構築して、そのCMの商品やサービスのエッセンスを1分間で過不足なく伝える練習をするといいそうだ。

河野氏は、中学1年で学ぶような基本的な英語の構文に、対上司のビジネストークに不可欠なメソッドが隠されていると言う。

「マネジメント層がしばしば感じるのは、上司の質問にきちんと答えない部下が多いということ。上司が、『顧客との面会のアポは取れた?』と聞いたとき、求める答えは、イエスかノーです。でも、アポが取れていない部下は、後ろめたい気持ちがあるからなのか、最初にアポが取れていない背景や言い訳のようなことを話したがる傾向があります。これだと、上司のフラストレーションはたまります。結論を先に、その後に説明や対策を述べるべきでしょう。同じように上司が『いつ?』と聞いたら時期を、『どこで?』と聞いたら場所を、まず答えるべきです」