「強烈なリーダーの下でうまくいっている組織にはよく、そういう役回りの人がいるものです。それは男であったり女であったり、役職も様々です。そういう人がいることによって組織としてのパフォーマンスが上がってくるのです。ですから『仕事に厳しく、部下とのコミュニケーションが苦手』と自覚するリーダーは、自分と逆のタイプの部下を補助役に使うのが一つの方法です」(兼本氏)

経営者になる人は、こうした工夫を経て温和な態度を身に付けるのだ。

「京セラ創業者の稲盛和夫さんにしても、独立して間もなく、部下たちの反発を受けて、従業員のことを第一に考える経営に舵を切ったのだといわれています」(井上氏)

もっとも、井上氏の見立てによれば、それは表面上の変化であって、合理主義者という本質は変わらない。逆にいうと、リーダーが情におぼれるようなことがあってはならないという。

情に流される人は経営に馴染まない

「若手の経営者でも、情に流されることのない合理主義者が大きな仕事をしています。たとえば部下の女性が目の前で涙を流しているとします。そのときに、『どうしたの?』といたわることはあっても、本心から同調しているわけではありません。そういう態度を身に付けたのです。私の実感では、若いころに情やコミュニケーションの問題で苦労をし、それを乗り越えた人が出世しています。逆に、若いころから人当たりがよく、相手にすぐ共感してしまうような人は、会社経営には馴染まず経営陣には入れません。これからはとくにその傾向が強まると思います」(井上氏)

リーダーの資質とは関係なく、「笛吹けど踊らず」の状態に陥るケースもある。たとえば社内改革を進めるときに、社員は誰も本気では立ち上がろうとしない、というときである。

プロノバ社長の岡島悦子氏によれば、「まず部下たちの信頼を得て、次に『この人のいうことはやったほうがいい』、そして『やらなくてはまずい』と思わせる」必要がある。そのためにはどうするか。

「部下たちにモチベーションを与えるため『ここを押せばいい』という心のスイッチを見つけて押すことです。日産自動車の再建に乗り込んできたとき、カルロス・ゴーン社長は『いつか一緒に(スポーツカーの)フェアレディZをつくろう!』と社内に呼びかけました。あるいは、カネボウの再建に当たったときに、当時の小城武彦社長は真っ先に工場の制服を出してもらい着たそうです。この人は自分たちの価値観をわかってくれる、と感じてもらうことが大切なのです」(岡島氏)

ストラテジックパートナーズジャパン代表取締役 兼本尚昌
山口県出身。防衛大学校人文社会科学科国際関係論専攻を卒業後、ダンアンドブラッドストリートジャパン、ガートナージャパンなどを経て、ストラテジックパートナーズジャパンを設立。著書に『プロ・ヘッドハンターが教える 仕事ができる人のひとつ上の働き方』など。
 
経営者JP社長 井上和幸
1989年、早稲田大学政治経済学部卒業後、リクルート入社。人事部門、広報室、新規事業立ち上げを経て、2000年に人材コンサルティング会社取締役就任。現在のリクルートエグゼクティブエージェントを経て、10年から現職。著書に『社長になる人の条件』など。
 
プロノバ社長 岡島悦子
筑波大学国際関係学類卒業。三菱商事、米ハーバード大学経営大学院(MBA)、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、2002年、グロービス・マネジメント・バンクの設立に参画。05年代表取締役。07年から現職。アステラス製薬などの社外取締役もつとめる。
(宇佐美雅浩=撮影)
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