このような見方に関連して、ペンシルベニア大学のA・ダックワース博士は「不屈の精神(根性)」に焦点を当てた興味深い調査研究を続けている。その研究では、誰もが持つ、1人ひとりに賦与された独自の能力(才能)が、物事を成し遂げる力となるためにはどのような過程を経ることが考えられるかが分析されている。

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図2:達成までの道のり

図2は「才能」が「スキル(技能)」として練成されるには「努力」という要因が必要不可欠であり、さらにはそのスキルと努力とがいわば共働したときに「達成」に至る、という図式である。楽観とレジリエンスは、こうした構造全体の成立を可能とすることに不可分に結び付いていると考察される。

たとえばPTSD(心的外傷後ストレス障害)はよく聞かれるが、心的外傷を被った後でも成長するという人間の可能性に注目するのがポジティブ心理学であり、そうした可能性をより実現しやすいようにするのが適応能力としてのレジリエンスである。今やポジティブ心理学といえばこのレジリエンスという言葉を聞かない日はないほどなのだが、それは以上のような着眼点による。また、レジリエンスは何よりも、うつ病や不安障害を予防する効果があることでも知られている。

レジリエンスは短期間のトレーニングで習得可能な一種の「テクニック」であるという点を重視したのがレジリエンス・トレーニングである。同トレーニングについては現在、世界中にあらゆる形式のものが見受けられる。それぞれ短期間であっても、または単発であっても、それなりの効果が望めるものなのだが、学術データによって実証されたトレーニング法でなければ一定の評価基準が得られず、肝心の効果の長期的持続性に対する信憑性も保証されない。このことは十分留意されなければならないだろう。

その点、ペンシルベニア大学が開発したレジリエンス・トレーニングは、ポジティブ心理学者たちによる調査研究データに立脚し、すでに世界各国で実績を挙げている。現在、その日本版開発がわが国の専門家たちの間でも検討されることが期待されている。