最大手であるリクルートエージェントの村井満社長は、求人数と求人社数の変化から現在の厳しい状況を指摘する。
「今年1月の求人社数は前年同月比で約3割減です。ただ、求人数の変化に注目すると、6割減とさらに厳しい。つまり1社当たりの採用人数が大幅に減少しており、“複数求人・大量求人”で一定人数を確保するといったニーズはなくなっています。対して応募者数には変化がほとんどありません」
人材紹介ビジネスは一般的に、キャリアコンサルタントが応募者の相談に乗り、転職先を紹介する。転職が決定した場合、求人企業は転職者の年収の30~40%を仲介料として支払うのが相場だ。
人材紹介会社がその景況を判断する指標の一つに、登録者が転職を果たすまでに何社への応募を必要としたかを計算したものがある。村井社長によれば、同社での昨年までの平均値は約9社であった。それが今は平均12社を超え、とりわけ40代以上の応募者では、7割増の16~17社という有り様だという。
応募者にとって厳しい状況は、日に日に増している。あるキャリアコンサルタントは次のように語った。
「これまで採用されていたレベルの人が通らなくなりました。それだけでなく、内々定が社長の決裁で取り消されたり、内定が出た翌日に採用凍結が決まったり、会社が解散してしまったり……」
採用の抑制と同時に、人員削減に踏み切る企業も増えている。雇用調整に伴う再就職先を斡旋する「アウトプレースメント」、その最大手・日本ドレーク・ビーム・モリンを傘下に持つメイテック広報部によれば、同社の相談件数は前年同月比で約50%増。07年後半から増加し始め、建設・不動産、外資系企業・金融関連業界の順で伸びていったという。
「今後は昨年末から増えてきた国内製造業の受注が中心になると見込んでいます」
アウトプレースメント業界の活況は、中途採用市場の苦境と表裏のものだろう。
このように「いい話は一つもない」と関係者が口をそろえる中途採用市場だが、状況を細かく見ていくと、「悪さ」の中にも強弱があることがわかる。
例えばIT関連の業績のいい中小企業では、この不況を人材確保の好機ととらえる動きもある。数としては少ないが、エネルギー関連企業、製薬や医療、科学の分野の採用活動はそれほど落ち込んではいないようだ。ただ、ここでこれまで以上に強調されているのは、「即戦力」というキーワードだと村井社長は続けた。「リーマンショック以後、求人が最も減った事務系職種は人事部です。人事部の仕事は採用だけでなく、教育や社員育成も含みます。要するに、人材育成にコストをかける余裕が現場にはなくなってきている。とりわけ“第二新卒”を積極的に採用する企業が今はほとんどありません」