出版不況下に制作「内部化」で売り上げ伸ばす

あさひ高速印刷(本社・大阪市)も、この20年間に経営改革を重ねてきた企業だ。同社はこの間に売り上げは落としたものの、財務の健全化を果たし、前向きな投資を行う余力が増したという。ここ数年こそ業績に波はあるが、「大手企業に相応の受注基盤を構築、毎期黒字確保」(東京商工リサーチ調べ)しているという。同社では、印刷だけではなく、その前後の工程である文字入力や編集、あるいは製本や検品などを自社内で一貫して行うことを重視している。まさに「内部化」であり、コスト面では不利なのだが、機密性の高い印刷物の受注などでは強みとなる。製本までの工程がひとつの工場内で完結し、管理が行き届くからだ。

あるいは、取扱説明書のように正確さへの要求が高い印刷物でも、内部化が効果を発揮する。内部化していれば、ミスが起きた場合、前後の工程も含めてその原因を洗い出し、再発防止策を練ることが容易である。現在のあさひ高速印刷は、たとえば、製本の工程でのミスが起きにくいレイアウトなどを、クライアントに提案することができる。こうした対応が可能なのも、同社が印刷の前後の工程を内部化し、それらのすり合わせから生まれる効果の学習を重ねてきたからである。

エイ出版社(本社・東京都世田谷区)は、バイクやスポーツ、ライフスタイルなど趣味の雑誌や書籍を得意とする出版社である。出版不況の中にあって、売上高を年々拡大。11年度の75億円から、4期で91億円(15年度)へと拡大している(東京商工リサーチ調べ)。

エイ出版社の特色も、制作の内部化である。企画や編集だけではなく、執筆や撮影、さらにはデザインなどに関わるスタッフを社内にかかえ、基本的に外部に頼らない。エイ出版は、臨機応変に趣味性の高いムック本や手帳などの臨機応変な投入していくことに長けているが、こうした動きが可能なのも、既刊本のコンテンツの著作権が社内にあるからだという。

さらに同社は、企業や行政機関などから、広報誌やブックレトの企画制作を受託する事業にも手を広げている。クライアイント側からすれば、事前の情報流出を防止しやすいという点で魅力的な選択肢となる。

加えて、独自のスタイルによるゴルフショップやレストランを開店したり、設計事務所を設立したりするなど、事業の多角化にも積極的である。こうした多角化では、ゴルフや食や建築に通じた社内スタッフが活躍する。すでにある内部資源の転用なので、新しいトライにあたっての費用面のハードルは低い。「そのために思い切った意思決定が可能となる」と同社の角謙二社長は語る。

オープン化は、現代の厳しい事業環境にかなう指針である。連携の中で専門特化を進めることは、事業の効率性を高め、企業が新たな取り組みへと向かう余力を生み出す。

だが、マーケティングとは複雑な問題だ。時代の流れに逆行するかのような内部化へと進む企業ある。内部化で効率は犠牲になっても、提供できる商品の品質が高まったり、事業展開の柔軟性が増したりするのであれば、付加価値の向上や新市場の創造が促される。ここに活路が開けるというのも市場だ。

大切なのは、オープン化の効果を認める一方で、その限界も見落とさないことである。これができるかどうかで、事業の質や活力を高める道筋を、どこまで広く考えることができるかが変わってくる。

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