円の急騰を反転させたG7協調介入
東北・北関東にある多くの民間企業の工場も大きな被害を受けた。また、東北・北関東の幹線道路が緊急車両の通行のために一般車両が通行止めになる一方、ガソリンの入手困難のために、東北・北関東を中心として経済活動に支障をきたしている。このような日本経済の一部に大打撃を与えた状況において、東日本大震災が発生した週明け(3月14日)より、為替相場が急速に円高に進んだ。それが、株安と同時に起きた。
震災の大きな影響を受けた日本企業が多数存在したことから東京証券取引所では大きな株安となった。同時に、震災の大きな影響を受けた日本企業が円の手元現金の保有残高を増やすだろうという予想(思惑)、そして日本の機関投資家などの金融機関が対外証券投資を控えたり、さらには国際分散投資に占める外貨の比率を下げ、円の比率を上げるという予想(思惑)が外国為替市場の一部の投機家によってなされた。これらの投機家が近い将来の日本の企業や金融機関による円買いを予想して、日本の企業や金融機関が円買いを始める前に、すなわち、円がまだ高くなる前に円を買って、そして日本の企業や金融機関が円買いを始めて、円高となったところで円を売って、キャピタルゲインを得ようという投機が行われたのである。そのため、3月16日のニューヨーク外国為替市場では、1995年4月に付けた79円75銭/ドルという当時の最高値を超えて、76円25銭の最高値を更新した。
それに対して、主要先進七カ国(G7)の財務大臣・中央銀行総裁が3月18日に電話会議を開催し、「日本における悲劇的な出来事に関連した円相場の最近の動きへの対応として、日本当局からの要請に基づき、米国、英国、カナダ当局および欧州中央銀行は、2011年3月18日に、日本とともに為替市場における協調介入に参加する」ことを合意した。その直後に、協調介入が実施されたことによって、同日のうちに81円/ドル台に反転した。近年においては、とりわけリーマンショックによるユーロとポンドの暴落が起きたときにでさえ、G7の財務大臣・中央銀行総裁は協調介入を行わずに、為替相場を市場に任せて、変動させてきた。しかし、今回は、東日本大震災が日本経済のみならず先進主要諸国経済をも混乱させることが懸念された。
「為替レートの過度の変動や無秩序な動きは、経済および金融の安定に対して悪影響を与える」ことが認識され、G7の財務大臣・中央銀行総裁は「為替市場をよく注視し、適切に協力する」という声明を発表した。
この東日本大震災後の円高、そして、協調介入後の円安という為替相場の乱高下は、いかに投機が外国為替市場を攪乱しているかを示している。以前にもプレジデント誌においてフリードマンの言う投機の自然淘汰説に対して批判的に説明したことがある。投機家はファンダメンタルズを知っているので、ファンダメンタルズ水準から為替相場が乖離すれば、投機家の投機によって即座に為替相場がファンダメンタルズ水準に戻る。そして、ファンダメンタルズを知らない投機家は自然淘汰されるために、ファンダメンタルズを知っている投機家だけで投機が行われる、投機によって為替相場が安定化すると。