「暴力団と取引してはならない」という法律はない。しかし、同社が指弾を受けたのは社会通念に抵触したからである。こうした反社会的な行為をしないこともコンプライアンスと認識すべきだ。
しかも、コンプライアンスの範囲は不変のものではない。法律の改正や社会の価値観、時代のニーズに合わせて常に変わっていく。セクハラやパワハラに対して、社員がここまで声を上げることは、一昔前ならなかった。時代や世の中の趨勢を把握し、こまめに見直していく必要があるのだ。
そのときに大切なのは、会社として何を優先するかを明らかにしておくことだ。私は、コンプライアンスを理解するために「新幹線理論」という考え方を提唱してきた。
まず一番目が建設する地盤の強固さである。活断層の上に超特急は走らせられない。これが企業にとってはミッションに相当する。この会社は何のために存在するのか。この部分が確かでないと会社経営そのものが“砂上の楼閣”になってしまう。
二番目が線路。線路がコンプライアンスである。これが曲がったり、ゆがんでいれば列車は脱線、転覆する。当然、その維持のためにはコストもかかる。しかし、怠れば新幹線は運行できない。つまり、コンプライアンスはリスクマネジメントでもある。
その軌道の上を新幹線が走る。これが三番目で、新幹線は企業における収益に当たる。収益を優先させると、安全もないがしろになり、ミッションも形骸化してしまう。
コンプライアンスの位置づけを明確にし、社員へ伝達する──。そうすれば、難局に遭遇しても判断がブレることはない。