「トスさばき」がメダル獲得のカギ

そりゃ、年齢がひと回り以上も違う竹下さんと比べるのは酷である。経験がちがう。ただ、ここにきて、攻撃の組み立てがしっかりしてきた。アタッカーの心理状態まで読んで、チームの攻撃を組み立てるようになっている。勝負のイタリア戦。宮下は試合前、エースの木村沙織主将に対し、「きょうは全部、(トスを)持っていきます」と告げていた。

攻撃を組み立てるのはセッターの仕事である。だから、極度の重圧がかかる。セッターが弱気になると、チーム全体が受け身に回って、韓国戦のように負けてしまう。が、一転。フルセットの末、奇跡のような逆転劇を演じたタイ戦では、途中から手が震えるほど緊張しながらも、最後までうまくあげ切った。

宮下はこう、笑顔で言っていた。「こういう苦しい試合を勝ち切れたことは、私にとってすごく自信になると思います」と。

ロンドン五輪までは、ベテランセッターの竹下さんが木村らスパイカーを育てたが、いまは木村らベテランのスパイカーによって、若い宮下が成長させられている。日本が五輪切符をとったあと、セッターならではの苦しみを知る竹下さんはこう、漏らした。「よくあげ切ったなあ、という風に思います。ねぎらいの言葉をかけてあげたい」。

宮下の課題は、トスの精度と攻撃の組み立てである。どうスパイカーの持ち味を引き出すのか。つまり、攻撃の“引き出し”をどうやって増やしていくのか、である。

23日。リオ五輪の女子1次リーグの組み合わせが発表された。世界ランキング5位(2016年1月1日現在)の日本は、五輪3連覇を目指す開催国ブラジル、4位のロシア、9位の韓国、12位アルゼンチン、21位カメルーンと同じA組となった。

連続メダル獲得のカギを握るのは、サーブとサーブレシーブ、そして成長著しい宮下のトスさばきである。

松瀬 学(まつせ・まなぶ)●ノンフィクションライター。1960年、長崎県生まれ。早稲田大学ではラグビー部に所属。83年、同大卒業後、共同通信社に入社。運動部記者として、プロ野球、大相撲、オリンピックなどの取材を担当。96年から4年間はニューヨーク勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。日本文藝家協会会員。著書に『汚れた金メダル』(文藝春秋)、『なぜ東京五輪招致は成功したのか?』(扶桑社新書)、『一流コーチのコトバ』(プレジデント社)など多数。2015年4月より、早稲田大学大学院修士課程に在学中。
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