2.教育(内へ向けての役割)
会社史の内へ向けての役割、つまり教育面での役割に関しては、企業文化の伝承と企業内知識の継承が、とくに重要である。
企業文化とは「企業の構成員たちによって安定的に選択される行動基準や思考パターン」のことである。誤解を恐れずに言えば、きちんとした企業文化がない企業は良い会社史を作ることができない。良い会社史には、すぐれた企業文化が書き込まれるべきだからである。最近、企業の革新的創業者や「中興の祖」と呼ばれる経営者たちから「企業革新のDNAを将来へ向けて社内で伝承してゆきたい」旨の言葉がしばしば発せられるが、会社史は企業革新のDNAを企業文化の形に昇華させて、後の世代の社員に伝えていく伝承記録としての役割をはたすのである。
一方、会社史は、社内の百科事典としての意味ももつ。企業では、新規事業への進出、既存事業からの撤退、大規模な組織改革、海外での事業所の新設など、10年ぶり、20年ぶりの出来事が生じることも珍しくない。このような「久しぶりのイベント」を首尾よくやり遂げるうえでは、過去に同様のイベントを実行した際の経験が大いに役立つ。そのようなケースでは、会社史の記述、あるいは会社史を編纂したときに集めた一連のデータに頼るしかない。会社史は、社内に蓄えられた無数の知識の宝庫である。つまり、会社史は企業文化だけではなく企業内知識も伝承するのであり、会社史の教育的機能は、この両面にわたるのである。