長時間労働は日本企業にとって「合理的」
日本の長時間労働体質の根本的な原因はどこにあるのか。賃金・労働時間データを駆使し、日本人の労働時間を実証的に分析している慶應義塾大学商学部の山本勲教授は「日本的雇用慣行にある」と指摘する。
「新卒で採用し、彼らに教育投資して一人前になったらそのリターンを得るために一生懸命に長く働いてもらうのが日本的雇用慣行だ。スキルを身につけた労働者を途中で辞めさせるのは大きな損失であり、雇用保障とセットで長く働いてもらうのは企業にとっても合理的。また、景気がいいときは残業で長時間働いてもらい、不況期には残業を減らして人件費を調整することができる。小売業などサービス業は製造・金融業に比べて日本的雇用慣行はそれほど強くないが、ドン・キホーテの場合、インバウンド需要などを背景に人手不足が影響し、限られた人数で長く働かざるをえないという要因もあるのではないか」
長時間残業を減らすのは容易ではない。現在、政府は大企業に適用されている月60時間超の時間外割増率50%以上を中小企業にも拡大することを検討している。だが山本教授は「割増賃金率を上げると人件費は増えるが、ボーナスを減らすことで調整が可能になる」と指摘する。
では企業各社は残業を減らすためにどのような対策をとっているのか。全社平均の残業時間が月10時間という中堅IT企業の人事担当者は「月単位で自分で就業時間を調整できる月間フレックス制度の導入や、在宅勤務など場所や時間を問わないリモートワークの推進、テレビ会議による打ち合わせ時間の削減などを進めている」と語る。
建設業の人事担当者は「出退社のゲート通過データと申告した残業記録を人事部が月単位でチェックし、組織・個人単位で改善に取り組むように指導している」と語る。