協力して初めて達成できる「上位目標」

では、集団間の敵意はどうすれば解消できるのか。

シェリフらによって行われた、集団間葛藤の実験(Sherif et al., 1961)では、キャンプに来た子供たちを2班に分け、綱引きや野球で優劣を競わせるとたちまち敵対意識が生じ、相手方を「汚い」「ずるい」などと否定的に見るようになった。

次にこの敵対関係を解消すべく、交流の機会を増やした。しかし花火大会も、一緒の食事も、かえってトラブルを増やすだけだった。

続いて、2つの班が協力して初めて達成できる「上位目標」が順次導入された。キャンプ場の給水タンクが故障した際は、両方の班が協力して修理に当たった。食糧調達用のトラックが立ち往生したときにも、双方が力を合わせてロープで引っ張り上げることになった。すると作業後は、互いに敵意は消え、友好関係が生まれた。

この実験結果からすれば、集団が敵対している場合であっても、互いに協力しないと達成できない上位目標を与えることで、友好関係が回復できるといえる。

また、自分の集団と相手の集団を包み込むような、新たな集団の境界を意識させることも有効だ。フランスとドイツの仲は歴史的に険悪だったが、両国がEUというより大きな集団に内包されることで、かつてに比べて関係は友好的になっている。

詳細は割愛するが、無意識のうちに持っている偏見でも、相手の立場に立って考え、共感する経験を通じて解消できることが、実験で確かめられている。その結果を敷衍するなら、欧米で社会的に優位なポジションにある、キリスト教を信仰する白人階層が、黒人や移民、イスラム教徒を排斥するのではなく、彼らの置かれた立場に心から共感する経験を持つように図ることが、テロの恐怖を減らす最良の道であるようだ。無論、すべての人にそれを求めるのは極めて困難なのだが……。

(構成=久保田正志 写真=Getty Images 図版作成=大橋昭一)
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