ここからわかるのは、人は自分が「ある集団に属する」と認識するだけで、その集団の利益の拡大を考え始め、かつ自派が他派に対して相対的に不利になることを嫌うようになる、ということだ。

各集団のメンバーが「自らが属する集団を有利なポジションに置こう」と行動することで、集団間には必然的に軋轢が生じ、そのメンバー同士が互いに敵意を抱くのである。

現実の社会では、集団は肌の色や性別など、わかりやすい指標で区別され、集団ごとに優位や劣位を与えられている。集団間の優位と劣位は、その集団に属するメンバーに一定の行動パターンを生じさせ、それが互いの集団に対する偏見を生む。

1968年、米アイオワ州の小学校で、「目の色で生徒を2つに分け、差別する」という実験が行われた。

小学校3年生の1クラスの生徒を、「青い目」と「茶色の目」で分け、担任の教師が一方の集団だけをエコ贔屓する。青い目の子たちはウオーターサーバーの水を飲んでいいが、茶色い目の子たちには、あれこれ理由をつけて飲むことを許さない。青い目の子たちは長い休み時間を与えられるが、茶色い目の子たちには与えられない、といった差をつけた。

すると、茶色い目の子たちは僻んで暴れ出し、一方、贔屓された青い目の子たちは茶色い目の子たちに対して横暴になった。茶色い目の子の1人が、青い目の子のメガネを割ってしまうという暴力沙汰も起きた。茶色い目の子たちは、学力テストの成績まで下がってしまった。

次の日、両者の地位が正反対に入れ替えられた。すると前日と逆の現象が起きた。今度は低い地位に置かれた青い目の子たちが暴れ始め、学力テストの成績も下がってしまった。

欧米では、「黒人は白人に比べて学業成績が劣り、犯罪傾向が高い」と考えられてきた。しかしこの実験の結果からは、黒人の生徒の学業成績が悪く、犯罪が多いのは、遺伝的素質によるものではなく、彼らが社会的に差別を受けているためだと説明できることになる。

この実験は大きな反響を呼び、後に日本でもNHKが「青い目 茶色い目 ~教室は目の色で分けられた~」と題して何度も放映している。