飲食業界は「分化」の時代へ?
わざわざまどろっこしく3つの機能にわけて語ったのには理由があります。それはそれぞれの機能をあえて分化したほうがうまくいくケースがこれから増えるのではないかと思うからです。開発や運営に長けた人には資金が集まる可能性が高いので、自前で開業資金を準備しなくても店を出せるチャンスは増えるでしょう(昔から「パトロン」自体はよくある話ですが、それがよりメジャーな方法論になりうるのです)。
また開発と運営の分離もテーマと言えます。多くの外食企業は自社で開発も運営もするのが普通ですが、両者は明らかに必要な能力が異なります。業態開発は上手だけれども運営はイマイチな外食企業も目にしますし、あるいは逆に、持っている業態の魅力度は高くないものの運営力はすごいという会社もあります。今後は、開発の得意な企業はその開発力を商品として売り物にすることも検討すべきでしょうし、運営の得意な企業は他者が開発したブランドの運営を請け負うことで強みを生かすのも良いでしょう。
さらに、最近では保有している業態を「売り抜ける」動きを目にすることが増えてきました。3つの機能で言えば、所有と開発、そして初期の運営までを行い、それに魅力を感じた他者にすべてを売り渡してしまうのです。テクノロジーの世界ではよくある「Exit」の形ですが、外食の世界でもこれから増えていくことでしょう。外部の開発業務を請け負って得られる「フィー」よりも、自社で一定期間の保有や運営のリスクまでとることで得られる「売却益」の方がずっと大きければ、それもひとつの有効なビジネス手法です。
いずれにしても、「同じ人や会社が、お金を自ら調達して、業態をつくって、できるだけ長く運営する」という従来型ではない方法論が増えることは、外食産業がより広がりや深みを出していくうえで、プラスに働くのではないでしょうか。
子安大輔(こやす・だいすけ)●カゲン取締役、飲食コンサルタント。1976年生まれ、神奈川県出身。99年東京大学経済学部を卒業後、博報堂入社。食品や飲料、金融などのマーケティング戦略立案に携わる。2003年に飲食業界に転身し、中村悌二氏と共同でカゲンを設立。飲食店や商業施設のプロデュースやコンサルティングを中心に、食に関する企画業務を広く手がけている。著書に、『「お通し」はなぜ必ず出るのか』『ラー油とハイボール』。
株式会社カゲン http://www.kagen.biz/