ふとした光景がビジネスに結びつくか

目的は「フルサービス型喫茶店の次にくるのは何か」を見極めることです。欧州には日本と違って400年も前からコーヒー焙煎業がありますから、その長い歴史の中から、何らかの答えが見つかるのではないかと思っていました。

サントノーレ通りからシャンゼリゼ大通りへ出ると、地下鉄の出口からサラリーマンが続々と現れて斜め前の喫茶店へ入っていきます。不思議なことに、椅子席が空いているのに人々はみなカウンターに群がっています。注意して見ると、椅子席とテラス席、立ち飲みとで同じコーヒーでも価格帯が違うということがわかりました。そのときに、心の中で「これだ!」と叫びました。喫茶業の最終形はセルフサービスの立ち飲みだと。

自慢するようですが、この朝、ほかの参加者たちはホテルで朝食をとっていたので、誰一人この光景を目にしていませんでした。また、仮にシャンゼリゼでサラリーマンの群れに出くわしたとしても「やけに混雑しているな」くらいの感想を持つだけで、彼らの不思議な行動には注意を惹かれなかったかもしれません。

人は関心のないものは見逃しますが、関心があるものなら雑踏の中からでも必ず見つけ出します。そのとき私は、危機感に背中を押されながら「次にくるもの」を探し歩いていました。俗にポケットカメラと呼ばれた薄型カメラと小型テープレコーダーを持ち歩き、街の隅々へ目を走らせていたのです。意欲満々だったというよりも、ここで成果をあげなかったら日本へは帰れない、と思いつめていました。ですからこれも「火事場の馬鹿力」といっていいと思います。

もう一つの主力業態であるエクセルシオール カフェを立ち上げたときは、こんなことがありました。そのころ米国からスターバックスコーヒーが上陸し、銀座や渋谷の一等地に出店して話題を集めていました。しかし銀座の1号店は、坪当たりの家賃が5万円。ドトールコーヒーショップでは坪3万円が採算ラインだったので「スターバックスは失敗する」というのが業界の定説になっていました。

ところが、店舗が隣り合っている渋谷のスターバックスコーヒーとドトールコーヒーショップとを観察していると、街から人がそれこそウンカのごとく湧き出して、両方の店に入っていくのがわかりました。両店とも1日に1000人は入ると踏みました。

するとコーヒーの売り上げだけを見ても、1杯180円(当時)のドトールは1日当たり18万円、250円(当時)のスターバックスは25万円。その差は7万円、1カ月(30日)では210万円になると計算しました。坪2万円家賃が高くても、50坪なら100万円。原価率は大きく変わらないはずなので、差し引き110万円残ります。一等地であれば250円で提供しても成り立つことがわかったのです。

となると、他社よりも早く一等地を確保しなければならない。そこから1杯250円(当時)の新業態エクセルシオールカフェを急展開することになるのです。

街角のふとした光景を目にして、それをビジネスに結びつけることができるかどうか。それはあなたが危機感とテーマ(将来の事業像)を抱いているかどうかにかかっています。

※すべて雑誌掲載当時

(面澤淳市=構成 尾関裕士=撮影)