また、国家の非常事態時の規定も問題である。憲法210条が規定する国防治安評議会(大統領、副大統領2名、各議院の長、国軍司令官、国軍副司令官、国防大臣、内務大臣、外務大臣、国境大臣の11名から構成。国防大臣や内務大臣などは国軍司令官に任命権がある)は、国家の緊急事態(憲法11章)において、大統領が国防治安評議会と協議して緊急事態宣言をし、大統領は国軍の最高司令官に国権の行使を委譲しなければならない(憲法418条)。この規定により、国家の非常事態時には、国家の統治機構の最高権限は軍司令官に自動的に移行するのだ。この場合、立法府の議員は自動的に失職し、国軍の最高司令官が、立法、行政、司法の執行権を有し、国民の基本的人権を制限できることになるという驚くべき非民主的な規定である。

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以上のような軍に特権を付与している憲法上の非民主的規定が改正されなければ、ミャンマーの間接的な軍統治の構造は変えることができない。与党代表となるアウンサンスーチー女史は、まず、憲法改正のために国軍との協力が必要となる。彼女の頑強な理想主義に固まるのではなく、国民の望む真の民主主義実現のためにも彼女の柔軟な協力姿勢と政治的手腕が試される。

さてミャンマーの新大統領は、2016年3月までに選出される。大統領は、下院、上院、および、それぞれの議院に帰属する軍人議員の3主体(3母体)から、それぞれ大統領候補者を選出し、その上で、下院と上院を合わせたミャンマー連邦議会において、大統領の選出投票を行う。この投票において、最多得票者1名が大統領(国家元首)に選出されることになる。最多得票を得ることが出来なかった他の大統領候補者2名は、自動的に副大統領に選出されることになる。選挙で圧倒的に勝利しながら、現行憲法下では大統領になれないNLD党首のアウンサンスーチー女史は、ジレンマを抱えながらの大統領選出に臨むことになる。

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