売上高1兆円超の大企業創業者ともなれば、豪邸に住む贅沢な暮らしぶりを想像しがちですが、まったくそういうところがありません。お釈迦様のいう「三毒」、つまり欲望・怒り・愚痴の3つを抑え、「人間として何が正しいか」の一点に判断基準を置くことを常々口にされ、それをご自身の生活でも実践しておられます。

稲盛さんはお金に関しては、「思い切り儲けて、思い切り使う」が大事だと考えておられます。我々は、業績が上がって少しお金ができたら、ちょっと遊びたいなどとつい考えがちですが、稲盛さんは「ちょこっと儲けて、ちょこっと使う。そんなことで満足してたらあきません」とおっしゃる。たくさん稼いで、大きく使う……この幅が広ければ広いほどいい、というのです。これは金銭の扱いのみならず、人材育成においても通じることでしょう。

「ジキルとハイドのような両極端の二面性を持て。その幅の拡がりが大きいほど、人間としての器が大きくなる」

稲盛さんのこの言葉を、私は肝に銘じています。

まずはその思い切り儲けるほうですが、稲盛さんは「利益を最大化することが大事や」「それには、常に創造的な仕事を行うことで売り上げを最大化して、経費を最小化すること。そうすれば利益は最大化していくのや」といつもおっしゃいます。

普通なら、売り上げの規模が大きくなれば経費も増えます。しかし、稲盛さんは「経費はそのままで止めとかんかい」とおっしゃる。「経費を上げずに売り上げを上げる方法を考えるのが経営者やろ」というのです。

そして、使うほうは、自分のためではなく、「世のため人のために」思い切って使うのです。

たとえば、かつて第二電電を興されたことはよく知られていますが、立ち上げ費用だけで1000億円もの大金を投じています。当時の通信業界は電電公社(現NTT)の一社体制で競争がないから、東京―大阪間など遠距離の通話料金は非常に高かった。

そこで、稲盛さんは競争が起きて電話料金が安くなることが世の中にとって必要と考えて、大金を投じて第二電電を興したのです。

そういう動機なら、たとえ失敗しても惜しくないということも口にされます。いや、動機が本当に善に基づいたものならば、私利私欲に基づいたものでなければ、失敗することはないとおっしゃいます。楽観的に構想し、明るく堂々と実行するのが稲盛流なんです。