たとえば、人型の模型を見てください。顔と首が一体化していたり、手首が内側に折れ曲がっていたり、本物の人とは随分違った形をしています。でも、この形こそが自由な解釈を与えるために導き出されたものなのです。腰を折り曲げて腕を前にしたポーズに組み立てれば、「どうぞ」と道を譲っているように見えるし、ジェスチャーを交えて話しているようにも見えます。
パッケージ裏面にある組み立て方の説明図にしても、事細かには記していません。説明図通りに組み立てなくていいし、そもそも組み立てずに眺めるだけでもいい。実際、購入者の半分はパッケージに入ったままの状態で部屋に飾っているようです。
製品としては、ポストカード大のサイズに収まるように各パーツをレイアウトするところまでは我々の役目です。パッケージを見ただけで組み立てるのがワクワクするように、見た目にも美しいレイアウトを探っていきます。
4月末には、渋谷ヒカリエでテラダモケイのアイコンでもある人型の「原器くん」主演の映像作品も公開し、ますます本来の目的から逸してきました。でも、今後も「1/100 建築模型用添景セット」という製品名を変えるつもりはありません。妥協なくプロ向けに作るからこそ、実用から離れた製品に価値と面白さが生まれると考えています。
75万枚売れたプロ向け建築模型
2011年2月に発売。毎月新シリーズを発表し続け、15年5月11日現在で全58シリーズを展開。累計販売数は75万枚以上。シリーズ最多売り上げは「No.011 お花見編」で、1万6000枚を突破している。写真上は「No.004 動物園編」(益永研司=撮影)
1967年、大阪府生まれ。明治大学工学部建築学科卒業後、英国建築家協会建築学校ディプロマコース修了。2003年、テラダデザイン一級建築士事務所設立。11年に「テラダモケイ」設立。インターオフィス取締役。ほか代表作にアイスクリームを溶かしながらすくい出せる「15.0%」スプーンなど。