【貞鏡さんの答え】

私は27歳の女性講談師です。去年、前座から真打ちの手前である二つ目に昇進しました。講談の演目や由来について解説するのは畏れ多いのですが、読者の皆さまに近い立場から、講談の面白さをお伝えできればと思います。

一龍齋貞鏡(いちりゅうさい・ていきょう)氏●1986年生まれ。父が8代目一龍齋貞山、祖父が7代目一龍齋貞山、義理の祖父が神田伯龍であり、世襲制ではない講談界で初の3代続いての講談師。2012年二つ目昇進。

「やられたら、やりかえす」という復讐といえば、講談では「怪談」です。幽霊は仇に怨念を募らせて、復讐のために化けて出てくるからです。

私は父も祖父も講談師という家庭環境でしたが、20歳になるまで講談を避けていました。けれど海外留学を通じて、自分が日本についてまったく知らないことを痛感し、身近な父の高座に足を運んだところ、講談の面白さに打ちのめされました。

特に私がはまったのが怪談でした。講談は因果応報の世界です。卑怯な行いをした人間は、必ず報いを受けます。たとえば『四谷怪談』では、夫の勝手な心変わりで毒を盛られたお岩さんが、恨み死にした揚げ句、幽霊となって夫を祟り殺します。情欲や金銭欲、裏切りといった、誰でも多少は心当たりのある負の感情が巧みに盛り込まれていて、「ある、ある!」と共感します。

「倍返し」は、やられた以上の報復をするという意味です。因果は巡ると考えれば、実行に移す前によく考えたほうがいいでしょう。人の一念ほど恐ろしいものはなく、「倍返し」の結果、その怨念は相手が化けて出るほどの重みをもつかもしれませんから。