民族の悲しい歴史は、創造性が発揮される方向にも影響を与えている。石角さんは、次のように指摘する。

「ユダヤ人はゲットーに閉じ込められて、生産手段を所有することを禁じられていました。朝9時から夕方5時まではゲットーを出て働いていいのですが、労働集約型の仕事では、労働に制約のない他の民族に比べて不利になります。そこでユダヤ人は、自分が働くことを禁じられている夜中でも勝手にお金が生み出される仕組みづくりに活路を見出した。製品そのものよりプラットフォームで勝負するユダヤ人経営者が多いのも、その影響でしょう」

日本は資源がない国だが、ユダヤ人とは違い、国土があって生産設備を持つことができ、労働の制約もなかった。それゆえに日本人の創造性は、製造業の効率を高めるカイゼンへと向かった。

この点は、グーグルやフェイスブックなど、新しいプラットフォームを創造して、莫大な利益を生み出しているユダヤ系の企業群の文化と大きく異なる。

日本在住のユダヤ人経営者、ディヴィド・エルババウムさんが手がけているのも、労働集約型のビジネスではない。ディヴィドさんが初めて日本に来たのは60年代。当初はイスラエル企業のエンジニアとして来日したが、日本のエレクトロニクス製品の精密さに感動して日本で起業した。以来、ディビィドさんは、監視カメラをはじめとしたさまざまな機器やシステムを開発。これまでに取得した特許は世界で500を超え、そのライセンスで利益をあげている。技術が企業に認められれば、寝ている間もお金が入ってくるわけだ。寝ている間にお金が入るというと楽をしているように聞こえるかもしれないが、ディヴィドさんは怠け者どころか勤勉だ。

「いまでも2~3カ月に1つは特許を申請しているよ。毎朝健康のためにプールで泳いでいるけど、途中で何かひらめいたら、アイデアが飛んで消えていかないようにプールサイドですぐ紙に書いている。同年代の日本人経営者はみんなリタイアしたけど、私はアイデアが浮かぶかぎり、ずっと現役だね」