このようなシェアする経済の制約要因になっているのは、「人間」である。シェアすることは、見方を変えれば「出会う」こと。出会いには、喜びの一方で、リスクが伴う。
乗り合う人は、信頼できるか? 宿泊する住宅やアパートの部屋はきれいか? そのような懸念を払拭するうえで、人工知能の役割は大きい。
すでに、相互評価や格付けなどのシステムは導入されているが、人工知能の本格的な導入、介入によって、「未知の人と直接出会うリスク」は回避される。人と人が出会う喜びから、リスクという「トゲ」を抜くことができるのだ。
考えてみれば、ネットワーク社会だと言われながら、私たちは、不特定多数の未知の人と出会い、シェアしたり協力したりするということを今まで十分にしてこなかった。
移動や宿泊手段のシェアは、ほんの入り口にすぎない。「学びたい人」と「教えたい人」を結んだり、「さびしい人」と「話したい人」をつなげたりといった、従来、不確実性やリスクが邪魔をして二の足を踏んでいた「シェアする経済」「出会う経済」が、人工知能による介入、フィルター、最適化を通して加速していくことだろう。
シェークスピアの戯曲『テンペスト』に、「すばらしい新世界」という台詞がある。舞台の進行上のある劇的な「出会い」の瞬間に、この言葉が放たれるのだ。
「特異点」の向こうは冷たい技術社会ではない。人工知能を通して、人が出会う。シェアする。そんな未来は、夢見るにふさわしい、まさに人間的なものではないだろうか。