ママと1対1だとグチを垂れ流す
クラブに似たラウンジには、ソファのエリアと入り口近くの間にカウンターのあるお店もあり、その中にはママやチーママが入っています。1人で来店するお客様には、エリートビジネスマンや企業の幹部もいますが、彼らもカウンターでママと1対1になるとグチを話したりします。「過去にこういうことがあったんだけれども……」「うちの上司が嫌な奴でね」と自分の弱さや悩みをママに垂れ流し、お仕事なのでママは、それを全部受け入れていますね。
ママは、集団で来た男性には男らしくふるまえるよう、円滑に未来思考のコミュニケーションがとれるよう努める一方で、1人で来店した男性にはグチでも悩みでも何もかも聞いてあげ、お母さん的役割を果たしています。お客様は、奥さんや家族に言えない悩みや厭な体験、運のなかった人生など、浮世の憂さを忘れたくて話すのでしょうが、会社や上司の悪口、定年後の再雇用で冷遇される話などはただ聞いているしかなくて、辛いと言ったママもいます。集団で来るときと1人で来たときとでは男性がこんなに違うものかと、研究室にいてはわからない男性サラリーマン社会の秩序を垣間見た気がします。
キャバクラでも都心の高級キャバクラは、若い男性があぶく銭感覚でパーッと遊ぶことが多く、愚痴よりもお仕事の自慢話になることが多い。私が働いていた地方の中流店や大衆店になると、タクシーの運転手さんやブルーカラーの方がいらしてましたが、お仕事の話はあんまりせずに、身近な話や愚痴、ストレートな下ネタがよく話題になりました。キャバクラ嬢にとって一番嫌なお客さんというのは愚痴をこぼしたり、自慢話をする人よりも、黙ってしゃべらずにいて、何を考えているかわからない人なんです。
1986年、石川県生まれ。同志社大学卒業後、京都大学大学院修士課程修了。キャバクラ嬢の体験をもとに修士論文作成。2014年『キャバ嬢の社会学』を出版。「BLOGOS」などのメディアに社会系・経済系の記事を寄稿。