【田原】どういうこと?

【猪子】日本古来の空間認識は、西洋の空間認識と違います。西洋の絵画って、全体が視野に入る位置まで離れて、1カ所で見なきゃいけないでしょう。写真とかビデオもそう。それに対して、日本古来の空間認識は必ずしも全体を見なくていいし、視点が動いてもいいんですよ。

【田原】絵巻がそうですね。絵巻は巻かれていることが前提だから、そもそも全体が見えない。

【猪子】そうです。だけど、江戸末期まで発達していた日本古来の空間認識は、産業革命以降の近代で1回滅びてしまった。マンガやゲームの世界ではこっそり残っていたんだけど、表向きは消えてしまった。

【田原】それを表現したの?

【猪子】デジタルは日本古来の空間認識とすごく相性がいいから、一度は消えた日本古来の空間認識がふたたび花開くんじゃないかと僕らは主張しています。だから作品も自由に歩き回って見てもらっていいんです。

【田原】最新のデジタルテクノロジーが日本古来の美を復活させるというのは興味深いですね。やはりデジタルは可能性を秘めていますか?

【猪子】僕らは、「デジタルという概念が美を拡張する」と言っています。いままで美というものは、物質があって存在していました。たとえば絵は、紙と絵具という物質に情報を付随させてはじめて存在できる。これって、不自由でしょう。でも、人類はデジタルという概念を手に入れて、物質に媒介させなくても情報を単独で存在させられるようになった。それによって、人間が表現したものはすごく自由な存在になった。