不変のアナログ、可変のデジタル

【田原】ちょっと難しい。具体的にいうと、どういうことですか?

【猪子】今日見てもらった中に、「お絵かき水族館」がありましたよね。子どもたちが紙に魚の絵を描いて、それをスキャナーで読み取ると、壁に映し出された水槽の中でその絵が魚になって泳ぎ出すという作品です。

【田原】ああ、あれもおもしろかった。

【猪子】田原さんにもクラゲの絵を描いてもらいましたが、ただ描くだけでは紙とクレヨンという物質から切り離すことはできません。でも、スキャンして情報として取り込むことで描かれたクラゲは、物質から解放されて、泳がせたり、形を変えたりできる。このほうがずっと自由でしょ。

(上)「お絵かき水族館」と(下)「花と人、コントロールできないけれども共に生きる、そして永久に—Tokyo」

【田原】なるほど。アナログの絵は変えられないけど、デジタルは変えられるわけか。

【猪子】可変であることで、いろんな可能性が広がると思うんですよ。たとえばさっき見てもらった「花と人、コントロールできないけれども共に生きる、そして永久に―Tokyo」だと、田原さんが立ち止まって花を見ていても、まわりに走り回る人がいれば花は散っていきます。つまり、自分の動きだけじゃなく、隣の人の振る舞いでもアートが変化するわけです。そうなると、隣にいる人の存在が気になるじゃないですか。つまり同じ空間にいる人の関係性をアートが変えていく。デジタルはそうした可能性を持っているというのが僕らの主張です。