体験と感覚を重視する
【牧野】今年卒業した一期生の一人は、まちづくりに関わるゼミに入りたいと言って、大学に進学していきました。意図はしていませんでしたが、JK課からそのようなメンバーが巣立ったのはうれしいことです。また、ある卒業生の親御さんは、JK課で活動する娘さんの姿を見て、「娘があんなに活発になるとは思わなかった」と喜んでおられました。体験し、活躍できる場所さえあれば、それまで無関心だった女性や若者も興味を持って地域の活動に参加してくれる。もしそうでなかったとしたら、そのような場所をつくってこなかった行政や大人たちの責任でしょう。
【若新】「そんな体験、させても意味があるのか?」と言って、地域の専門家や大人たちが一方的に決めつけてしまっては、未来の地域を担う若者とのギャップが大きくなるばかりですね。
【牧野】これからは若者、特に若い女性をいかに地方に留めるかが自治体にとっての勝負だと思います。10年くらい前までは、高校を卒業した若い女性がいったん福井県を離れても、4割以上は戻って来ました。しかし、いまはそれが2割を切っています。女性の場合は特に、30歳くらいまでに地元に戻らなければ、そのまま県外で結婚し住み続ける可能性が高くなります。若い女性が「住みたい」と思う魅力的なまちづくりが、これからの自治体施策の中心になるでしょう。
そのためにも、彼女たちにどんどん体験してもらい、そこでうまれる若い感覚をしっかりと受けとれる行政の姿勢が非常に重要です。例えば、JK課では地元のパティシエと組んでオリジナルスイーツを開発しましたが、女子高生たちが「おしゃれ」「かわいい」といった感覚から提案したアイデアをそのまま商品化しました。こうした感覚を重視するということは、これまでの市の事業にはなかった切り口です。これからの施策にぜひ生かしていきたいですね。
【若新】従来のまちづくりでは、お菓子がいくつ売れたとか、まちへの経済効果がどうだとか、そういう数値ばかり重視されていました。しかし、これからのまちづくりで大事なことは、関わった当事者に「ワクワクする」「楽しかった」という体感がうまれることだと思うんです。これを数値化するのは難しい。鯖江市は、JK課によって「何かが変わる」というプロジェクトの“ゆるさ”を認めてくれました。これがもし、数値化できないあいまいな感覚よりも、計画や効果測定を重視する行政プロジェクトだったら、彼女たちはすぐに冷めてしまっていたと思います。