ふつうのランナーはサボる言い訳を探す
でも、この心づくしのおもてなしがランナーにとって逆効果になる場合もある。楽しいレースはタイムを出すのが難しいのだ。マラソンというのは、言い訳との戦いである。ランナーは日ごろの練習から言い訳と戦っている。
みんながみんな走るのが楽しくて走る練習をしているわけではない。むしろ今日は寒いからやめよう。ウエアに着替えるのが面倒だからやめよう。オリンピック目指すわけじゃないんだし、明日走ればいいじゃないか……という気持ちを必死に抑え込んで走っているのである。
レースでも(イーブンペース、イーブンペース)と心の中で唱えながら、スピードをあげたくなる気持ちと戦い、逆にくたびれた後半は(スピードを落としなよ、休んじゃいなよ)というヘタレな気持ちがわいてくるのと戦いながらの42.195kmなのである。つまり、いたれりつくせりのサービスは、ランナーへの誘惑が多いということでもある。
▼マラソン中、何を考えている?
よく「マラソンを走っているときに何を考えているの?」と聞かれる。
地味な大会なら5kmごとのラップタイムをチェックするくらいで、ほとんど何も考えていない。頭の中はほぼ空っぽだ。ところが、大都市型の場合だとエンターテインメント的な要素が多いので、頭のなかは雑念だらけになる。
つい給水所ごとに立ち止まって、横浜名物が置いてあるかチェックしたくなる。つい、おへそを出したお姉さんと記念写真を撮ってフェイスブックにアップしたくなる。もよおしてもいないのに念のためトイレに寄っておこうかという気になってしまう。
いやあ、あんな誘惑、そんな誘惑にすっかり負けてしまい記録は悲惨。大した練習もできていなかったので、キロ6分ペースで4時間12分くらいで走るつもりだったのが、5時間かかった。
マラソンはコツコツ練習すれば、必ず記録は伸びる。特に運動経験がない人は、それまで走っていなかった分、伸びしろが十分にあるので、5年くらいは右肩上がりに速くなるといわれている。だから気力体力精力ともに減退し、視力も記憶力も衰える中年男性にとっては、記録が伸びるランニングは面白く、ハマるのだ。
ただ5年くらい走っていると記録は頭打ちになる。それ以上記録を伸ばすには、それなりにハードな練習をしなければいけなくなるからだ。
というわけで、タイムを伸ばすために激しい練習をする気にもなれず、とはいえ、走るのをやめてしまう気にもなれず、ダラダラと走っているランナーにとっては、いたれりつくせりのサービスさえなければ、もっと速く走れたのになあ……という言い訳が浮かんでくるのだ。