また傍流に出されたからといって、気を落とすことはありません。早期退職を迫られて、再就職を目指す人たちのなかでは、傍流の部署で、ひとりで何でもやらなければいけなかった人ほど、はやく仕事が決まります。小さな部署でも、トップやリーダーを務めていた人のほうが、マネジメントについてリアルに話せる。反対に、大企業の本流で、専門性の高い仕事をしていた人は、いざというときの横の移動が難しいという現実があります。自分の能力を限定せずに、いろいろなことに挑戦していた人ほど、ツブシが利くといえます。

みなさんがご承知のように、仕事の能力と出世は、必ずしも関係ありません。出世は運の問題が大きい。私は声を大にして言いたいのですが、現実には『半沢直樹』のように、大義のために上司に楯突く人は、大企業では生き残れません。

こんな経験があります。ある大企業との取引がこじれたとき、役員が「俺はハンコを押していない。これは偽造だ」と言い始めました。私の目の前で、その当人が社印を押したのにもかかわらず、平然とウソをつくのです。私は衝撃を受けました。これほどの大企業の役員が、こんなことを言うのか、と――。

そのうち納得しました。仕事の能力と出世は関係ないのです。その役員は、いつからか「俺はえらいのだから、俺が正しい」という思考回路にはまってしまった。ビジネスの現場では往々にしてこういうことが起きますが、『半沢直樹』のように、その役員を懲らしめ、土下座させることはできません。ドラマはあくまでもファンタジー。だからこそ、あれだけヒットしたのだと思います。

不幸にも出世がかなわず、リストラの候補に挙げられ、望まない退職となったとしても、それで死ぬわけではありません。世の中には生きたくても生きられない人はたくさんいます。あのとき退職になってよかった、と思えるくらい、次の場所で幸せになりましょう。幸せになることだけが、前職での不遇への復讐となるのです。

塩野 誠(しおの・まこと)
経営共創基盤(IGPI)パートナー/マネージングディレクター。1975年生まれ。米国ワシントン大学ロースクール法学修士。ライブドア証券副社長などを務め、現職。著書に『20代のための「キャリア」と「仕事」入門』など。
(プレジデント編集部=構成・撮影)
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