では効き目のある抗がん剤が開発される可能性はあるのかといえば、それはなかなか難しい。抗がん剤が効くためには、がん細胞の成長(つまり分裂)だけを抑制し、正常細胞のそれは抑制しないことが必須になる。しかし、がん細胞は正常細胞から分かれたものなので、細胞の構造や機能が共通している。したがって、がん細胞を殺そうとすれば、正常細胞も殺してしまうことになる。この例外はなく、固形がんに関しては、効き目のある抗がん剤の開発は不可能に近い。
どの臓器の、どういう進行度のがんでも、治療法や対処法は複数ある。臓器を残す治療法を選べば、治療死は少なくなる。苦痛等の症状があってつらかったら、鎮痛剤等の体が楽になる方法を選ぼう。体が楽になると生命力が回復し、寿命が延びるもの。転移に毒性の強い抗がん剤は厳禁だ。
今、書籍を購入したり、インターネットで調べたりすれば、いくらでもがんに関する情報は手に入る。がんとどう向き合うのか、自分で決める心の準備はしておくべきだろう。
1948年生まれ。73年、慶應義塾大学医学部卒業。同年、同大学医学部放射線科入局。79~80年、米国へ留学。83年より同大学医学部放射線科講師。がんの放射線治療を専門とし、乳房温存療法のパイオニアとして知られる。患者本位の治療を実現するために、医療の情報公開を積極的にすすめる。著書に『患者よ、がんと闘うな』『抗がん剤は効かない』『がん放置療法のすすめ』『再発・転移の話をしよう』『医者に殺されない47の心得』『「余命3カ月」のウソ』など。2012年菊池寛賞受賞。