しかしアメリカでも、日本でも、泌尿器科医を中心とする「PSA検診業界」はこういったデータや勧告を無視し、検診宣伝などの営業努力を続けている。その結果、いまだに大勢が前立腺がんと診断され、無意味かつ有害な治療を受けさせられている。

「PSA値が高い」と言われた場合、当人はいろいろ悩み、葛藤が大きいはずだ。PSA値が正常値より「2」高い「6」程度の場合、仮に前立腺がんが発見されても、その99%は放置しても死ぬ恐れがない「がんもどき」と考えられる。残りの1%は、すでに臓器転移があって治療しても治らない「本物のがん」だ。これは医学的事実であり、どちらも治療を受ける意味はなく、有害なだけだ。

男性にとってPSA検診を受けることが意味を持たないのと同じように、女性にとって無意味なのが乳がん検診である。マンモグラフィ(乳房X線撮影)検診が行われているのは、欧米でいくつも実施されたランダム化比較試験=くじ引き試験で、非検診群に比べて検診群の乳がん死亡数が減少したというのが根拠になっている。ところが、こうしたくじ引き試験結果を調べ直すと、死亡数は減少していないことが判明した(Lancet 2000;355:129)。

それなのに日本でも欧米でも、マンモグラフィ検診は廃れない。ことに日本では、「意味がない」という前記発表があった後に、官民挙げてマンモグラフィ検診の導入・普及に血道を上げている。その理由が、厚生労働省、機器メーカー、検診事業者、医療機関等からなる検診ワールドの利益拡大にあることは明らかだろう。

例えばマンモグラフィは、真性がんではない人まで「疑わしい」とされてしまう、いわゆる「偽陽性」結果がとても多い。疑わしいとされると、太い針を患部に刺して組織を採取することになり、無罪放免になっても、計り知れない精神的ダメージを被る。仮に乳がんが発見された場合には、ダメージはさらに大きくなる。乳房が全摘される可能性が高い。

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乳がんの転移後の生存期間

実は乳房の「がんもどき」は、臓器転移はないものの、乳管の中を這うように広がっていることが多い。その場合、命に別条はなく、放っておけばいいのだが、組織検査では「がん」とされてしまう。そのため外科医は、乳房全摘術をしたがる。

これに対し、シコリで発見される乳がんは、臓器転移している可能性があるが、乳房内では比較的限局しているので、乳房温存療法で済むことが多い。“マンモグラフィ発見がん”は、タチがいいのに乳房を全摘されてしまう。