勝久氏が提出した取締役候補者名簿は、社内5人、社外5人という構成だ。しかも社外の人選は外部のコンサルティング会社が行っている。嫌っていたはずの社外取締役を半数導入するという提案なのだ。久美子社長による会社側提案では社内4人、社外6人となっており、対抗意識は明らかだ。古い経営に徹していると見られれば株主の賛同が得られないと考えたのだろうか。
また、久美子氏は社長復帰後、中期経営計画を発表して、2015年12月期以降の3年間、配当を40円から80円に引き上げる方針を示した。自己資本利益率(ROE)が低迷する変革期の間、株主には配当で報いるとしたのだ。
これに対して勝久氏側は3月6日に配当を3倍の120円にする案を公表する。2月の記者会見で勝久氏は「赤字なのに増配するのはおかしい」と批判していた。ところが、一転して社長提案を上回る増配案を提示したのだ。株主総会で株主の支持を得るための方策として打ち出したのは明らかだろう。
出だしは経営を巡る新旧の対立だったはずが、委任状争奪戦となった途端に、新しい経営を競い合う構図へといつの間にか変わってしまったのだ。皮肉なことだが、これで大塚家具のガバナンス体制が強固になれば、いずれが勝利してもめでたい限りだ。ところが、久美子社長側からは、そうではないという声が聞こえてくる。
「(勝久氏は)委任状争奪戦さえ勝ってしまえば、後はどうにでもなると思っている」というのだ。社外取締役だって自分の言う事を聞かなければ辞めさせればよいと思っているのではないか、という。
関係者によると、今回の騒動のそもそもの発端は、勝久夫妻が長男の勝之氏に会社を継がせたいと考えたことにあるという。その結果、「脱『創業家経営』を頑なに進めようとする長女が邪魔になったのだろう」とその関係者は話す。株式公開した企業の経営に創業家はどこまで関与すべきか。これまでたくさんのオーナー企業で、創業家が失敗してきた轍を大塚家も踏む事になるのか。総会後の経営の行方にも注目したい。
※1:株主総会で、経営側が諮る議案に反対し、別の議案を独自に提案して採決を競う。議決権行使の「委任状」をほかの株主から集めて、多数派工作を行うこと。大塚家具のケースでは、久美子社長側が「会社提案」、勝久会長側が「株主提案」を出している。
※2:今年5月施行の改正会社法では社外取締役を置かない企業に理由の説明を求めている。また東京証券取引所は上場企業に求める新しい企業統治ルールとして、独立性の高い社外取締役を2人以上選ぶことを促している。