5月29日、東京証券取引所が上場申請を承認したサントリー食品インターナショナル(SBF)の新規株式上場(IPO)が決まった。上場日は7月3日、資金調達額で今年最大規模となる。同社はコーヒー飲料「BOSS」や緑茶飲料「伊右衛門」など清涼飲料事業を手がけ、国内清涼飲料市場のシェアは約2割。コカ・コーラグループに次ぐ第2位の座にあるサントリーホールディングス(HD)傘下の中核事業会社だ。

サントリーHDにとっては、売上高と営業利益それぞれでほぼ半分を占める稼ぎ頭であり、上場で市場からグループが得る約4700億円の資金を、アジアを中心とした海外でのM&A(企業の合併・買収)に活用する。株式市場にとっても、年初からの急激な株価上昇局面が転機を迎えたなかで、内需型で景気に業績が左右されにくい大型ディフェンシブ銘柄には、市場の活性化への期待が高い。

サントリーHDをSBFの上場に駆り立てた背景には、人口減少時代を迎え、先行き国内市場に大きな成長が見通せないとの危機感がある。成長の軸足をアジア中心の海外に移すにしても、銀行からの借り入れや社債発行だけでは資金面で限界があり、欧米企業の大型M&Aに太刀打ちできないとの判断が働いたことは言うまでもない。

この点は、東証から上場申請を承認された当日、サントリーHDの佐治信忠社長が「事業活動をグローバルに広げ、飛躍的な成長を遂げることを期待したい」とのコメントを発表したことでも十分うかがえた。佐治社長はすでに2年以内の退任を表明済み。今回の上場をグループ飛躍のテコに、有終の美を飾る意向だ。

しかし、株式のほぼ9割を実質的に同族が占めるサントリーHDが、上場後のSBFの株式を約6割握ることに。発祥の酒類事業を担うサントリー酒類は非上場のままだ。ビール事業を参入46年目にしてやっと黒字にこぎつけるなど、同族ならではの経営の自由度から企業DNAを守る一方で、成長領域の清涼飲料事業は上場で市場からの資金調達の道を開き、成長戦略につなげる。そんな「両天秤経営」に、コーポレートガバナンス(企業統治)の観点から市場が厳しい目を向けていることも確かだ。

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