勉強ができるだけじゃダメなんです!
両親の仕事の都合で翔君がカナダに渡ったのは、5歳の時である。カナダにはキンダーガーテンといって小学校への入学準備をする学校があり、翔君もそこに入学している。英語のリスニングは0歳の時からやっていたが、読み書きはほとんどできない状態だった。
カナダの小学校はグレード1(1年生)からグレード7まで7年間あるが(州によって異なる)、翔君がギフティッドの推薦を受けたのはグレード3、8歳の時だ。栄美子さんが言う。
「最初は学校にいる専門の先生が、この子はギフティッドかもしれないと推薦してくださいます。その後、学校レベルの試験、教育委員会レベルの試験など何段階もの試験があり、おそらく精神的なバランスを見るのだと思いますが心理学者による面接などもあって、登録までに半年以上かかりました」
学力テスト(数学・英語)、知能テスト、論理テストなどで高得点を取る必要はあるものの、ペーパーテストの成績だけで登録されるという性質のものではないらしい。では、ギフティッドとはいったい何者なのか。翔君自身に定義してもらおう。
「ただ勉強ができる人ではなくて、自ら興味を持っていろいろな情報を集めて、そこから何かを創造する人のことだと思います。神様からそうした能力をギフトされた人を政府が登録して、その能力を社会に貢献させようというのがこの制度の趣旨だと思います」
もちろん学力や知力もトップレベルでなければ推薦は受けられないが、より重視されるのは「想像力とアントレプレナー(起業家)としての資質」だというから驚かされる。翔君自身、推薦を受けるきっかけになったのは、学内で自ら仕掛けたあるイベントではないかと考えている。
「推薦を受ける前にShow & Tellという授業で映画『インディアナ・ジョーンズ』(邦題は『インディー・ジョーンズ』)の続編を創作して劇に仕立てて、みんなの前で発表したのです。ストーリーを僕が書き、他の生徒も巻き込んでプロップ(小道具)を作ったりして。そういうことをオーガナイズするところを先生は見ていたんじゃないかな」
Show & Tellとは生徒がクラスメートの前で行う手軽な発表会で、カナダの小学校(低学年)ではほぼ毎日行われている。基本的にネタは何でもいい。思い出の品を持参してそれについて語ってもいいし、一芸を披露してもいい。カナダの学校ではこのShow & Tellのように、自力で何かを企画してそれを人前でプレゼンテーションする能力を徹底的に磨かれるという。栄美子さんが言う。
「タレントショーといって音楽やダンスをみんなの前で披露するイベントもありますが、なんとタレントショーにはオーディションがあるんですよ」
翔君が続ける。
「あまり上手じゃない子でもガンガン応募するんです。当然、落ちるんだけど、何度も何度もトライする。そういう姿を、みんなが笑ったり意地悪く言ったりすることは絶対にない。カナダは『一歩前へ!』という文化だから、チャレンジすることを先生も生徒も否定しないのです」
カナダの学校の様子を聞いていると、横並び意識に縛られている日本の子供たちとのギャップに愕然(がくぜん)とさせられる。
「とにかく手を挙げることが奨励されているので、先生が『質問は?』と尋ねるとみんなどんどん手を挙げる。指されて、『質問を忘れました』なんてケロリと答える子もいます(笑)」