本当の情報は人間の判断を経たもの

会場で少し話したとき、彼がデジタルのCDは「やせた音しか出ない」と言ったのが印象的だった。「昔は針を取り替えたり、竹針を削ったり、アームの針圧を調整したり、それなりの準備が必要だった。そういった作業をしているうちに音楽を聞く心の準備ができる。いまはボタンを押して、聞き流しですから……」とも。

究極のアナログプレーヤーと言われる「Σ3000」を製作した機械技術者、寺垣武は『知恵』(吉村克己編、実業乃日本社、2003)という本で、「大半の人が考える情報は『単なるお知らせ』に過ぎない。本当の情報は人間の判断を経たもので、簡単には入手できない。ネットで情報収集が簡単になったというのは間違いである」、「コンピュータによる設計や試作が進むと、技術者はものづくりのプロセスやものの質量を忘れ、全体性を見失う。それが大きな事故につながる。技術者が手で試作品を作ることが重要だ」、「情報や知識を集めすぎると、新しい発想が生まれない」、「頭で理解したものはなかなか自分のものにならないが、体を動かして得たことはいつまでたっても忘れない。身体はいつもアナログだが、脳はデジタル思考に陥りやすい」などと、なかなか頭の痛いことを書いている。

これも10年も前の話だが、インターネットの1年は通常の世界の7年に匹敵するという意味で「ドッグイヤー」という言葉が使われた。デジタルはスピードこそが、さらに言えば、加速するスピードこそが生命である。いまはインターネットの1年がそのまま現実世界の1年である。私たちはそのスピードに飲み込まれ、豊かな精神態度を忘れつつある。そのことをときに思い出し、少し道草をした方がよさそうである。

関連記事
なぜ、スマホやパソコンではなく手書きなのか?
手帳の選び方、ITとの使い分けをどうするか?
羽生善治「若手に負けぬための秘密の習慣」
視点を導く「アナログ・放置・熟成」法 -早稲田大学商学学術院教授 内田和成
小さな紙片情報は、メモせず手帳に貼って管理