習近平体制の中国では、「反腐敗」キャンペーンの下、かつての文化大革命を彷彿とさせる粛清の嵐が吹き荒れている。だが、今の中国の報道を見ていると、周永康氏という大トラを退治したことで、習近平氏としては粛清ブームに幕を引きたいと考えている節がある。恐怖を与えすぎると追い詰められた相手が自分の寝首を掻こうとするかもしれない。いきすぎた粛清に対するバックラッシュ(揺り戻し)を習近平氏自身が恐れ始めているように感じる。

かといって手を緩めれば足をすくわれる危険性もあり、結局、引くに引けないのが今の習近平氏の立場だろう。中国経済の上がり目は少なく、国民の不満は日増しに高くなっている。さらに土地バブルが崩壊すれば、先に豊かになった人たちまで転落して、現体制に対する不満は増大しかねない。それがわかっているから、習近平政権は腐敗撲滅による綱紀粛正と風紀の引き締めに勤しんできた。しかし、それも限界に近づいている。

ということで、習近平氏としては自らと共産党の保身のために、国内の不満を外に吐き出させる方向に舵を切らざるをえないだろう。

これまで日本やフィリピン、ベトナムなど周辺国との軋轢を利用して、国民の目を逸らしてきた。しかし日本バッシングの有効期限はそろそろ切れかかっていて、国内世論に緊張感を与える対立関係となれば、やはり相手はアメリカしかいない。

米中は場面によっては握手をしながらも、水面下では殴り合う準備を互いに進めていくことになるだろう。

見方を変えれば、米中がプレーアップしていく中で、これからは対中恐怖症からアメリカに近づきすぎた日本を中国側が引き戻そうとする局面に移っていくと予測できる。習近平氏はこれ以上、日本を追い込むようなことをしないだろうし、対日関係で必要以上にいらだち(演技)を見せる必要もなくなるだろう。

現に中国では最近、日本旅行ブームとなっているが、旅行してきた人々は異口同音に「日本は美しい国だ、皆親切だ、民度が高い、政府の言う日本と違う」といった発言がネットに溢れている。ネット王国中国では政治的に「小日本」を貶めることはできても、実際人々は「あれっ?」という感じになってきている。

政府は中国との首脳会談を模索しているようだが、こちらから尻尾を振らなくても、向こうから勝手に寄ってくるのを待てばいい。

(小川 剛=構成 AP/AFLO=写真)
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