「鎖国政策」を選べば海外業者は野放しに

技術の進展によって「個人に関する情報」はあらゆる分野に拡がりつつあります。個人に関する情報は今後の成長産業において極めて重要で、その究極が遺伝子情報です。

遺伝子情報を分析すれば、その人が将来どんな疾病を発症しやすいかがわかるでしょう。また、ネットを使った記事閲覧履歴や購買情報などを収集し、行動情報を組み合わせることで、性格や信条、趣味嗜好まで手に取るようにわかります。ある個人を動かすには、どのような情報に接触させればいいのか、という分析も可能になるでしょう。

行動ターゲティングに代表される新しいテクノロジーは、ICTや広告分野だけでなく、人の認知と行動の仕組みそのものに深く切り込もうとしています。いわば、その人が何者であり、どのような未来を持つ存在であるか。その予測精度を上げるのがビッグデータ関連事業です。すなわち、個人に関する情報を集めて分析することで、その個人の健康や、行動の未来を予測し、相応しい治療や欲しいと感じるサービスの提供ができるようになるのです。

そして、複数の企業にまたがる「個人に関する情報」を集約させることで、その人が持つ関心や消費の可能性を読み解き、本人が望む最高の選択肢をタイムリーに提案できるようになるでしょう。そのためにはDMP(データマネジメントプラットフォーム)と呼ばれる仕組みを整える必要があり、諸外国で整備が進みつつあります。今回の法改正は、日本がその流れに乗り遅れないための布石とも言えます。

しかし、そうした個人情報の流通の効率化は、利用者の認知と承認を前提とするべきです。極論を言えば、「詐欺に引っかかりやすい人のリストに基づいた不適切な情報商材をピンポイントで売る」「遺伝子データから罹患しやすい病気を名指しで広告に表示し恐怖を煽ってモノを買わせる」といった事例が出てくる恐れがあります。

ルールが未整備であれば前者のような「カモリスト」が猛威をふるうようになるでしょう。後者のように日本人の遺伝子データが本人の承諾なしに海外にごっそり出て行けば、損害を蒙るのは日本人そのものになります。こうした問題を起こさないようにするためにも、データの利活用を妨げない代わりに問題会社には然るべき措置を取る仕組みが必要になるのです。

この産業は、多くのデータを集めるほど精度が上がるため、日本国内で独自の規制を敷き情報を閉じることは、日本人の限られた情報しか扱えないことを意味し、グローバルに情報を流通させる海外の事業者にアドバンテージを取られることになります。