EU司法裁判所は米ネット検索大手グーグルに対し5月13日(現地時間)、個人情報の検索結果の削除を命じる画期的な判決を言い渡した。自宅を競売にかけられた16年前の新聞記事が、その後債務を完済したにもかかわらず、自分の名を検索すると出てきてしまうとして、スペイン人男性が訴えていた裁判。一般に「忘れられる権利」(自分の好ましくない過去のプライバシーを消す権利)と言われ、EUが法制化に向けて準備を進めていた。判決はその流れに先行した格好だ。

EU司法裁は日本でいう最高裁に当たるため、グーグルは今後EU域内での活動に際して対応を迫られるが、早速サイトを開設して依頼フォームを用意したところ、「自身の氏名にリンクする検索結果の削除リクエストが数時間で1万2000件を超え、そのペースは1分当たり20件」(6月2日付ウォール・ストリート・ジャーナル)という。

グーグルの対処の対象は今のところEU域内にとどまっているが、この判決は日本にどう影響するか。

「今の日本には忘れられる権利のようなものはなく、名誉毀損やプライバシー侵害など人格権に基づいて、削除を裁判所に求めることになる」と誹謗中傷問題に詳しい法律事務所アルシエンの清水陽平弁護士は言う。要は明確な権利侵害がないと原則として認められないのが現状だ。

企業も同様に“ブラック認定”や行政指導を受けたなど、その後改善がなされているにもかかわらず、誹謗中傷や風評被害に悩む場合も少なくない。単なるクチコミか内部告発かがわかりにくく、法的対応以外の対策を迫られるケースもある。そのため検索結果の順位を下げて、見えにくくするサービスなどもあるが、「月額20万~50万円が相場」(業界大手シエンプレの林宣行氏)という。

本来は個々の書き込みを消せばいい話だが、書き込まれた内容が違法かどうかの判断は、掲示板サイトやプロバイダーにはできないし、その確認には時間がかかる。しかし検索できなくすれば、書き込みのあるURLさえ知らなければほとんどの利用者は見られなくなるはずだ。

「知る権利、表現の自由との問題で困難を伴うが、今後日本でもこうした議論はすべき」(前出・清水弁護士)

今後、日本におけるグーグルの対応も注視する必要がある。

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