データ活用が進んでいるアメリカでは、すでにさまざまな問題が発生しています。たとえば、密かに妊娠した高校生が妊婦向けのサプリメントを検索したため、自宅にマタニティ用品を薦めるDMが届き、親に妊娠が発覚した――というケースが話題になりました。

いま進みつつある日本の法改正は、「アメリカなみに自由な情報の流通を可能にすること」を念頭においたものです。企業が「個人に関する情報」を安心して扱うことのできる枠組みを作り、産業競争力を高めることが目指されています。

一方で、アメリカにおいて自由な情報の流通が認められている背景には、FTC(連邦取引委員会)の存在があります。FTCは企業を対象に、「不公正または欺瞞的な行為または慣行」を厳しく監督する機関です。個人情報の漏洩や不適切な利活用に対しては、立ち入り検査を含む調査権限があり、即座に営業を停止させることもできます。被害が拡大する前に、立ち入り検査と業務停止を行えるというFTCの存在は非常に大きいといえます。

さらにアメリカの法制度には、企業への巨額の懲罰的罰金や、消費者の集団訴訟を支援する「クラスアクション制度」があり、これらがプライバシー侵害への抑止力となっています。

翻って、これらの法制度が整っていない日本において個人情報の自由な流通を実現しようとすると、必然的に企業の身勝手な“やり得”を認めることになり、重大なプライバシー侵害が立て続けに発生することでしょう。日本経済に活力をもたらすと期待される「ビッグデータ」の影の部分と言えます。

法改正を控えて決定された「パーソナルデータの利活用に関する制度改正大綱」では、アメリカのFTCにあたる第三者機関を創設することが明記されました(※1)。しかしここで想定されているのは業界団体を前提とする自主規制で、FTCのような強力な取り締まりは期待できません。業界団体の枠にかからない業者は簡単に法をすり抜けることができてしまいます。自由な流通のためには、厳格なルールで「個人に関する情報」を守る必要があります。FTCのように強い権限を持つ第三者機関が日本にも必要でしょう。