1.あきらめない!規制にも踏み込む
1993年、ヤマハ発動機が発売した「PAS」という製品が世界初の電動アシスト自転車である。ヤマハ発動機といえばバイクのトップメーカーだが、「安いバイクをつくる」という発想ではなかったらしい。
「国内では80年代頃から若者のバイク事故多発を受け、高校生の『三ない運動』、バイク免許を取らせない、乗らない、買わないという動きが活発になりました。またヘルメット装着が義務付けられ、髪形が崩れるため女性にも好まれなくなってきた。ヤマハではバイクに代わる次世代の乗り物として、自転車に着目したのです」(ヤマハ発動機SPV事業部マーケティング部PAS営業企画グループ・石井謙司氏)
確かに自転車というのは免許がいらない。ヘルメットをかぶる必要もない。誰でも乗れる。最も手軽なパーソナル・モビリティというわけだ。話を聞くと、この後は苦難の連続だったようである。商品開発上の苦労はもちろんのこと、法規制との関係があった。
「道路交通法を管轄している警察庁や、道路運送車両法を管轄する当時の運輸省に提案したと聞いています。自転車にモータを付けた新しい乗り物を考えている、これを自転車として認めていただければ、体力弱者の方の利便性が上がると提案をしたそうです」(同)
国内にも世界にもなかったこの商品、当初は自転車としてなかなか認めてもらえなかったそうだが、やり取りを続ける中で省庁側も商品の違いや利点を理解してくれるようになった、と石井氏は言う。
「この乗り物はエコや高齢化など、社会が抱えているさまざまな課題を解決するんじゃないか、と前向きに捉えてくれる」ようになり、商品化にこぎつけることができた。
試作品段階では失敗も多かった。ヤマハ発動機では、当初バイクづくりの発想でフレームのトップチューブ下(ハンドル部とペダル部分をつなぐフレーム)にバッテリーを付けていたという。
「ずっとこの形を考えていたんですが、これではスカートをはいた女性が乗れないと気づきました。いまではすべてここ(縦パイプの後部)に付いています」(石井氏)
自転車にモーターを付けたり、小さなエンジンを付けたりするだけなら技術的に難しくはなく、アジア諸国でもそういった商品は出回っている。しかし、人間のこぐ力を検知して違和感が出ないように「アシスト」する制御となれば難しさの次元がまったく違う。あくまでも人間の力を「アシスト」するからこそ、これは自転車として認められるのである。一見当たり前のようなこのポイントがあるからこそ、繊細なものづくりの力が生きた。