また、ストレッチ対象者の戦略的配置と有機的に結びついているのが「サクセッションプラン」(後継者育成計画)である。サクセッションプランとはポストの後任を主に短期、中期、長期の3階段に分けて人選する仕組みである。同社の場合は課長以上を対象に「たとえば私自身が1年後に亡くなった場合は誰にポストを任せるのか、3年後は誰にするかを決める。次に上司が自身のポストの後任を決めて、さらに会社全体でまとめたものについて最終的に人事も入って議論し、事業グループ全体のサクセッションプランを策定する作業を毎年行っている」(酒井部長)という。
サクセッションプランと同時に全社員を対象にした人事異動を行う「年間人事計画」も同様のプロセスで策定している。こうしたサクセッションプランや年間人事計画の策定のプロセスのなかで「ストレッチの対象者をどこに配置するのか、コンセンサスを得ながら検討し、最後にCEOが決定を下す」(酒井部長)ことになる。
経営幹部の養成も重要であるが、管理職層の能力開発など全体的な底上げも不可欠である。同社は05年に管理職層の処遇制度を見直し、従来の年功色を廃した「役割等級制度」を導入した。これは職務遂行能力に重点を置くのではなく、役割と貢献度、つまりどういうポストに就いているかで給与が決まる仕組みである。
従来の制度ではいったん就いた資格や役職から下がることはほとんどなかったが、この制度は貢献度が低く「役割の任にあらず」と評価されれば、降格もあるという厳しい制度である。ただし「保証期間を設けており、いきなり落とすこともなければ、がんばれば再び上に上がることも可能」(酒井部長)である。
全体的なポスト不足のなかでライン管理職の新陳代謝や活性化を狙い、同様の制度を導入する企業も多いが、最大の課題はマネジメント力が不足していても成果を出し続ける有能な社員の処遇である。同社は「高度専門職」という概念を導入している。
「純粋にポストだけで処遇すると報酬が低くなる人も出ます。しかし、ポストに就いていなくても能力があり、大きなアウトプットを出す人もいます。そういう人に部長や課長と同等の処遇をするために高度専門職という役割を設けました」(酒井部長)