そして、いち早く輸入した。これが検査で用いられている「自家蛍光気管支鏡検査」である。「気管支の1~2ミリ単位のがん、前がん病変も高率に発見できました」と。
気管支ファイバーを使い、ある特定の光を発する光源をつけて行うのが自家蛍光気管支鏡検査。気道粘膜に光を照射すると、正常粘膜と早期がんでは光の反射が異なる現象を利用して、通常の気管支鏡ではわかりにくい病変を早期発見する。中心型肺がんにはすぐれた検査法である。
当時、池田主任教授の前任教授だった加藤治文名誉教授が、早期の中心型肺がん治療にレーザー光線を使った「光線力学的治療(PDT)」を世界で最初に行っていた。その治療ともマッチした。
さらに、11年11月、池田主任教授グループは富士フイルムと共同で、“術中ナビゲーションシステム”の「シナプスヴィンセント」を開発。通常のCT画像をシナプスヴィンセントに入力すると、その人の手術解剖の情報が3Dで再現される。
「肺の血管は血流が豊富なので、手術中、損傷しないように注意が必要です。シナプスヴィンセントを使うと、臓器の奥の動脈や静脈の走行が異なった色で表示されるため、安全に手術を進めることができるのです。“まさに車の運転とカーナビの関係”です」
この新しい開発は、いかに手術を確実に行うか――そのための補助システムである。
「手術をより安全かつ手際よく行うためには、基本的な技術をしっかり身につけ、多くの経験を積むことが前提です。しかし、今後は科学の力で手術自体を進化させていくことも必要と思います」
患者の生命を第一に思うからこそ、新しい時代の外科治療を開拓するチャンスに恵まれたように思えてならない。
1960年生まれ。86年東京医科大学卒業。93年から94年、カナダ・ブリティッシュコロンビア大学へ留学。2002年東京医科大学外科1講座講師、08年より呼吸器外科、甲状腺外科主任教授。日本外科学会指導医・専門医、日本胸部外科学会指導医・専門医、日本呼吸器外科学会指導医・専門医。日本胸部外科学会評議員、世界気管支学会理事などを務める。