たしかに利鞘は減るが、そのぶん多く飲んでもらえればいい。290円ならば飲んでみようと思う客は多い。ステーキが焼き上がるまでに1杯、2杯。「けん」のサラダバーには枝豆もあり、ビール好きの急所を突く。実際、生ビールを出していたときよりも注文数は圧倒的に増えたという。


ビールグラス、きれいな店、汚い店の見抜き方

「料理に対するビールの値段のアンバランスさは誰もが感じるところでしょうから、(第三のビールの生は)いずれどの店でも導入されます。それなら、ウチが最初に、と思ったんです。決断は秒速です」

そんな井戸の決断を寺坂も絶賛する。レストランで麦とホップの生を飲んで、「美味い!」と客が感じる。感動の場をつくることに成功したのだろう。

さらに担当営業の森学のフットワークのよさが、井戸の信頼を勝ち得た。

「ふらんす亭チェーンを買収したとき、店のビールはアサヒだったんです。でも担当者からすぐに連絡がこなかった(笑)。それでサッポロにしました」

と井戸。なによりスピード感を重視する風雲児は何を欲しているのか。それを考えすぐさま動いた営業の勝利である。(文中敬称略)

(小倉和徳、滑 恵介(広島)=撮影)