私の知る限り、サラリーマンの世界で能力のある人が大きな仕事をしたとは限らない。出世した人が大きな仕事をしでかしている。
私がゼミのOBに「上司に媚びてでも早く出世しろ」と言ったのは、能力があるにもかかわらず、出世競争から外れ、結局は組織の中で大きな仕事を成し遂げられなかったサラリーマンをたくさん見てきたからだ。
飛び抜けた高い能力を持つ人も中にはいないではないが、個人間の能力の差は自分が思うほど大きなものではない。「俺は仕事ができる」と思っても、大抵の場合それはドングリの背比べだ。そこそこの能力はあっても、所詮それは「そこそこ」だ。
そこそこの能力はあるのに、上司に気に入られないために出世できず、去っていた人を私はたくさん知っている。そんな人に限ってかつての上司や会社の不満を口にし、「俺が出世していれば、もっと良い会社になったのに……」と愚痴をこぼす。ダメな上司と出会ったのを「運が悪かった」と自分を慰めるが、それは自業自得だ。たとえどんな上司でもうまく折り合いをつけ、石に噛りついてでも出世を手に入れる覚悟と努力が足りなかったのだ。
サラリーマンの身分で大きな仕事をしたいと思うのなら、「残念なサラリーマン」になってはいけない。媚を売ることが出世の近道なら、変なプライドなど捨てて堂々とやればいい。仕事で妥協をしてはいけないが、人間関係で妥協は付き物だ。