業績が悪くても自分の責任として捉えないのは、経営陣だけではない。開発部門は、よいクルマをつくっても売れないのは販売のせいだといい、販売部門は商品力がないのを開発のせいにする。ゴーンさんはそれを「他責の文化」と言った。

彼は大胆な目標を掲げてリストラに取り組んだが、その見どころの1つは、企業情報を社員たちにすべて公開したことだ。日産が販売台数を増やすためにダンピングをしていること、素材や部品の仕入れ価格がトヨタやホンダに比べて2割以上高いことなど、自社が抱える問題を公開し、危機感を共有した。さらに、目標が達成できなければ、自身も含めて役員全員を辞職させるとまで宣言した。

問題意識、危機感が共有できると、何をどう改善すればよいかという具体的な話になる。問題解決に対するモチベーションも高まる。実は、これが日産を立ち直らせる原動力になった。

伊藤忠商事の社長・会長を務めた丹羽宇一郎さんも、バブル崩壊後の低迷期に大胆な経営改革で同社を建て直した人だが、彼は譲れない経営理念として「クリーン」「オネスティ」「ビューティフル」を挙げた。清廉で隠し事をせず、見苦しくない経営。一見きれいごとだが、先述のゴーンさんのエピソードと通じるだけでなく、今の多くの勝ち組経営者は皆、似た言葉を口にする。

丹羽さんが素晴らしいのは「社員全員をエリートにする」という考え方だ。エリートとは、有名大学出身者という意味ではない。自分の頭で考え、判断し、実行できる人材のことだ。

まず、大事なのは企画力。新しいものに目を向け、取り込んで形にする力。次に、企画を実現する力。アイデアは誰にでも思いつく。しかし、重要なのはそれを実現できるかどうかだ。例えば、テレビ局なら番組の企画を出して、プロデューサーや編成が「面白いね」と言っても、たいていそこで終わってしまう。