日本の半導体メーカーが苦戦している原因が、人事マネジメントにあることを、私がかつてエルピーダメモリにいたときに気づいた。

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20年後、全員が無能に

DRAM(パソコンやデジカメなどに使われる半導体メモリ)が16メガから64メガに性能が上がると、工程は300から400ステップへ増加する。当時、1技術者だった私は、3~10工程を担当し、全体の工程がどうなっているかを知ることがなかった。256メガ開発のときに課長になり、部下に効率よく仕事をさせるために初めて全体工程を見た。すると、意味がわからない工程が3割以上あることに気付いた。そこで担当者に「この工程は何の意味があるのか?」と尋ねると「わからない。16メガのときにあったものだ」という答えが返ってきた。そして当時16メガを担当した部長に聞くと「4メガフローにあったから残した」という。

湯之上 隆 
1961年、静岡県生まれ。日立製作所、エルピーダメモリなどで、半導体の微細加工技術開発。

それにしてもなぜこんなことが起きるのだろうか。たとえばある年に5人の新入社員が半導体の技術者として配属されたと仮定しよう。入社十数年を経ると彼らの中から課長に昇進する者も現れる。しかし、課長になったとたんに「無能化」する者が出てくる。なぜなら昇進するのは技術で功績を挙げた者だが、彼らにマネジメント能力が必ずしもあるわけではないからだ。さらに昇進を機に現場の技術から遠ざかってしまう。

さらに10年後になると、課長にうまく適応できた者が部長に昇進することになる。しかし、部長になるとますます技術開発の現場から遠ざかり、最先端の技術がまったくわからず、完全に「無能化」することになる。反対に技術開発の最前線で研究しているのは、技術開発で実績がない人である。