Q 私は社内の誰にも負けない仕事の分野を持っています。その点はプロフェッショナルサラリーマンの条件に当てはまると自負しています。ただ、その代わりと言ってはなんですが、著しく不得意な分野があり、そこについては自分だけでなく上司や同僚も半ばあきらめていて、その分野の仕事を振ってくることはありません。現状、得意分野のみに焦点を当てて頑張っていますが、不得意分野もできるようになるよう努力すべきでしょうか? 不得意分野を頑張ることはストレスにもなるため、得意分野だけを頑張るほうが仕事の効率がいいようにも感じていますが、不得意分野を放置しておくことで、出世できなかったら困ります。アドバイスを頂戴できますと幸いです。(海運会社、34歳、男性、入社8年目)


A 少し前に、「自分は何でもそこそこできるオールラウンドプレーヤーだけれど、誰よりも秀でたものがない」という悩み相談をいただきましたが、あなたはその逆ですね。

平均であることを良しとする日本文化では「平均レベル」なら問題ないと思われがちです。日本企業も、自社ブランドを保つために、教育やマニュアルで全社員の能力をプロとしての平均までに底上げしようとして、結構な時間とお金を費やします。これは社員教育をする側の企業の姿勢としては当然のことですが、個人のキャリア戦略においては遠回りになりがちです。

結論から言うと、無理にウイークポイントを克服する必要はありません。なぜならもともと苦手な分野を努力して伸ばそうとしても、せいぜい平均レベルにしか届かないからです。

ということは、いくら頑張ってもその分野で名を馳せてリーダー的な存在にはなることは難しいでしょう。

それならば、そのエネルギーを強みをさらに伸ばすことに振り向けたほうがいい。その強みで組織に貢献する代わり、苦手なことはやらなくても済むようにするのが最善策です。でも、あなたはすでにそれができてしまっている。僕がここで言うことはもう何もありません。

せいぜいアドバイスできるとしたら、もしどうしても苦手なことを克服したいなら、それを得意にしようと頑張るのではなく、「人に迷惑をかけない程度にする」くらいでいいのではないかということです。もしあなたが慣れないことに手を出せば、誰かが尻ぬぐいをすることになり、かえって迷惑がかかるかもしれません。

自分でやるべきことを他人にやってもらうのが申し訳ないなら、いまよりもっと強みで貢献する度合いを増やすことです。その代わり、できないことは、まったくやらずに済ませるのが賢い。

「すみません、もう本当にこの仕事が苦手で、自分が触るとかえって迷惑なので、担当からはずしてください。そのかわり、これは得意なので、みんなの分も引き受けます」

と提案するもの手かもしれません。そんなふうに分業できるのが組織というものの良さですし、得意分野でしっかり組織に貢献できていれば、不得意なことは周りの人から見れば愛嬌に変わっていくものです。

それから著しい不得意分野があることで、出世の妨げになるのではないかという心配は杞憂です。不得意なことを補ってくれる部下がいれば、それで何の不都合もないからです。

むしろそのほうが組織を円滑に運営できることが多い。自分の苦手を自覚している人は、それを補ってくれる人をちゃんと尊敬できるし、信頼して仕事を任せられるからです。

普通、人間は自分のことはよくわからないものです。でもあなたは、自分の得意分野と不得意分野がはっきりわかっている。おそらくあなたは自分の強みを伸ばせば伸ばすほど、活躍することでしょう。

言い方を換えれば、活躍している人たちというのは、得意分野をどんどん伸ばして、不得意分野を捨ててきた人たちのことです。

でも人間は叱られたり失敗したりすると、できないことのほうを強く自覚するので、躍起になってそれを克服しようとしてしまう。しかしさきほども言ったように、もともと苦手だから、どんなに頑張ったところで、ものすごく得意にはならない。せいぜい平均レベルです。

結局、得意分野も見つからないままいい年になって、まわりの人の出世をうらやむ羽目になってしまいます。ようやくオールラウンドプレーヤーになれたころには、定年を迎えているかもしれません。
そうならないためにも、基本は自分の強みを伸ばすこと。弱みを克服しようと頑張るのは、ほどほどにしておきましょう。

「個々の力を組織全体のアウトプットとして最大にするためにはどうしたらよいか?」という視点で一度考えてみると、今回の話も合点がいくと思います。

※本連載は書籍『プロフェッショナルサラリーマン 実践Q&A』に掲載されています(一部除く)

(撮影=尾関裕士)