「戦略的いい人」になろう!

ではビジネスパーソンは、どうすれば「弱い絆」や「ストラクチュアル・ホール」を増やせるのでしょうか。まず単純ですが、異業種交流会などで多様な分野の人々と「とりあえずの知り合い」になることが第一歩といえます。このような場でいきなり強い絆をつくることはできませんが、弱い絆を多くつくることには向いています。さらに、多様なバックグラウンドの人々がいれば、それを通じて業界と業界、会社と会社、人と人などの間に「隙間」を見つけられるかもしれません。みなさんの中には異業種交流会を敬遠してきた方もいるかもしれませんが、特に今後キャリアの見通しがはっきりしない(不確実性が高い)方には、やはり有用な活動だと思います。

しかし、このような活動は必要条件ではあっても、それで十分ではありません。大事なことは、たんなる名刺交換だけでなく、「いざ何かあったときに、気軽に相手のところに電話したり、メールで質問できるぐらいの関係」をその場でつくることです。つきなみですが、やはり人と人の絆には信頼関係が築かれていることが重要で、そうでなければ有用な情報交換はできないからです。これは経営学でも、多くの統計分析で明らかになっていることです。

信頼といっても「強い絆」をつくれ、ということではありません。それは時間もかかりますし、非効率的です。大事なのは、弱い絆であっても、すぐにそれを活用できる程度の「そこその信頼感」を相手に与える術を身につけることです。たとえば異業種交流会では、第一印象で相手にいい印象を与えて、「この人なら何か電話やメールが来たときに、助けてあげてもいいな」と短時間で思わせることです。内向的な性格の方には難しいことかもしれませんが、とりあえず笑顔を絶やさず、発言はなるべくポジティブにして「いい人」を演じるのです。私はこれをうまくやれている人を「戦略的いい人」と呼んでいます。

この世で最も不確実な職業の1つは「起業家」ですが、私の知る範囲で、成功している起業家の大部分が(少なくとも表面上は)人間的にとても魅力的な方々です。いうなれば「人たらし」です。人たらしの効用はリーダーシップ論で語られがちですが、これはネットワーク論の視点からも重要です。

たとえば今、日本で最も注目されている起業家の代表はDeNA創業者である南場智子さんでしょう。私は直接の面識はありませんが、南場さんの魅力的なお人柄はいろいろなメディアで賞賛されています。もちろん南場さんが戦略的にいい人を演じているというわけではありませんが、ご自身の魅力が知らず知らずのうちに縁をつくり、「弱い絆」や「ストラクチュアル・ホール」を増やしてきた可能性は大いにあると思います。

世の中には、本来の能力が高くても、「人の縁」に恵まれず成功できない方がいます。ここで大事なのは、「縁」は与えられるものではなく、自分でつくり出すものだという発想転換でしょう。その第一歩として「弱い絆」と「ストラクチュアル・ホール」、そして「戦略的いい人」を意識されることは有用だと思います。

(構成=荻野進介 写真=Getty Images)
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